小売業のデジタル化による「情報接点」と「購買経路」の多様化
「ECが定着すれば、もうリアルなお店はいらなくなる」。一時はそんな議論が盛んに行われ、実際に最近でも「老舗小売企業の倒産」や「大手小売業の相次ぐ店舗閉鎖」などのニュースが、海外から日本へ届いております。しかし、実は足元で米国小売業は堅調な市場成長を見せており、NRF(米国小売業協会) *1の予測では2019年には4.4%の成長を実現するとしています。
背景には、大手小売事業者がここ数年間でテクノロジー投資を基盤としたサービス拡充を積極的に推進し、生活のデジタル化によって多様化する買物客の購買行動変化にいち早く対応してきたことが挙げられます。つまりデジタル化に対応するべく積極的な投資を行ってきた小売事業者が市場成長を牽引し、そうでないところは危機に瀕する、という二極化が起きているのが現状と言えるでしょう。
では、スマホやリテールテック等をはじめとするデジタル化の進展によって、生活者の買物行動はどのように変わったでしょうか?
ひとつには「購買経路の多様化」が挙げられます。かつては買物と言えば、欲しいものを思い立ち、お店に行き、棚の前で商品を選んで買う、という直線的な行動を示しました。しかし、現在ではスマートフォンの浸透やECサービスの拡充に加え、サブスクリプションによる定額課金でのサービス利用や個人間取引サービスの普及など、一口に買物と言っても様々な手段でモノやサービスを手にいれる・利用する時代になっています。
この買物の変化をマーケティング視点で捉え直してみましょう。今までは、いかに商品の認知を取り・店舗に送客し・数多ある商品から自社商品を手に取らせて、短期的な売上を積み上げていくことが小売事業者の行動でした。しかし現在では、いかに生活の中に点在する多様な情報接点・購買経路を活用しながら継続的な関係性を作り、LTV(Life Time Value)を高めていくか、ということに論点が変わってきます。近年この領域では「Path to Purchase Marketing」や「Relationship Commerce Marketing」などの言葉が多く使われるようになってきました。
こうした環境下において、必然的に生活者から支持される商品(ブランド)や店舗の役割にも変化がみられ、小売事業者のアプローチも変わりつつあります。