“同質的でない他者と働くこと”が「時代の要請」
市川博久氏(アクセンチュア株式会社 執行役員 セキュリティコンサルティング本部 統括本部長、以下敬称略):宇田川先生の本で主題とされている「適応課題」というのは、まさに日本のビジネスパーソンが日々直面していることだと感じました。高度経済成長期の延長で生きてきているような僕らの世代は、資格のような形式知を身につけたソリューションと呼ばれるものを取り入れたりすればなんとかなる、という教育を受けてきました。けれど、もうそういう世の中ではなくなっているんですよね。命題が不確かな環境の中でビジネスを動かしていかなければいけないという状況に、多くの人が苦労していると思います。
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):そうなんですよね。
市川:僕らも今、新しいビジネスにチャレンジしているんですけど結構大変で……。「私の専門はこれ」「あなたはそれ」と細分化しているような状態で、どうやって融和し、一人ひとりでは作れないような価値を生み出せるか、ということをずっと考えています。
先生がおっしゃる「わかりあえなさ」を受け入れ、「なぜその人がこの発言をし、こういう行動を取るのか」ということを俯瞰できるようなスキルが全員にあればいいんですけど、今はそれができない人が多い。過渡期のやり方としては、異質な人同士を接続する触媒的な役割(カタリスト)を誰かが担わないといけないのかな、と思っています。ただ、この役割ってすごく疲れるんですよ。AさんとBさんの間でトラブルが起きたとき、Aさんがなぜこう言っているのかをBさんが理解できるように価値変換して伝える、というようなことを日々やるので、心労が大きくて(笑)。
宇田川:市川さんが、そういう役割をされているということですか?
市川:今は、そうですね。というのも、そもそもなぜ「他者と働く」必要があるのかという課題認識がなければそういうことはできません。
過去のアクセンチュアのビジネスは、もっとわかりやすかったんです。クライアント企業の効率を上げるために我々がコンサルとして入っていって大きな情報システムを入れる、というような話が多かった。そういう場合は同質性が高いメンバーでやっちゃったほうが効果的だったんですね。
でも、効率化だけでなく価値創造を求められる時代になり、同質的でない人たちが出会うことで何かを生み出せるんじゃないか、と考えるようになったんです。先生のおっしゃる「わかりあえなさ」は、それぞれの常識が重ならないグレーな部分にあって、そこにこそ今まで気づかなかったヒントがあるんじゃないかと、それを見出していくような取り組みにチャレンジしています。結果としてすごく面白い結果が出たことも何度かあって、僕がやりたいのは、どうやったらそれを再現性のあるものにできるか、ということなんです。