企業が業績を重視しつつ、同時に社会や環境へのポジティブ・インパクトの創出を目指す「ステークホルダー資本主義」の時代において重要となる新たなリーダーシップの実現に必要な5つの要素が明らかになったと本調査ではしている。世界経済フォーラムとアクセンチュアは、これを「レスポンシブル・リーダーシップ」と名付けた。
本調査では、企業が今後10年にわたってさまざまな課題に対処しながら、成長加速と社会的変革を達成するためには、経営層に以下のような幅広い属性および人間的特性が求められると指摘している。
「レスポンシブル・リーダーシップ」の5つの要素
ステークホルダーのインクルージョン
意思決定においてさまざまなステークホルダーの立場を考慮し、多様な人々が発言権と帰属意識を持てるようなインクルーシブな環境を整備することで、あらゆる層の信頼を確保し、それらをポジティブなインパクトにつなげること。
感情と直感
真の人間らしさを持ち、思いやりや謙虚さ、寛容さを示すことで、自組織のメンバーのコミットメントを高め、創造性を解き放つこと。
ミッションとパーパス(企業の存在意義)
企業およびステークホルダーの間において持続可能な繁栄という理念を共有できるよう働きかけ、全員が共通の目標に向かって前進できるようにすること。
テクノロジーとイノベーション
新しいテクノロジー群を活用したイノベーションを実現し、企業の社会的責任を果たし、新たな社会的価値を創出すること。
知性と洞察
データを重視した継続的な学習と知識の共有・やりとりを通じ、組織の成長と社会的変革に向けて絶えず進歩し続けること。
本調査レポートは、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ、新興グローバルシェイパーズコミュニティのメンバー(新進気鋭のリーダー)、CEOをはじめとする経営層、従業員や消費者、その他のステークホルダーなどのグループ2万人以上を対象に実施した調査および企業業績の計量分析やその他の独自調査に基づいて作成されたもの。
本レポートは、企業が繁栄するためには、環境面や社会的、経済的な課題に対処する必要性が高まっていることを明確に指摘している。例えば、調査対象の新進気鋭のリーダーの61%が、「ソーシャル・インパクトと利益成長の両方を実現できるビジネスモデルこそがあるべき姿である」と回答。さらに、経営層の79%およびステークホルダーの73%が、「新しいテクノロジーがもたらすポジティブな潜在能力を引き出すためには、企業による社会的な役割の再定義が必要になっている」と述べている。
このほか、調査ではリーダーに対して求める要素としてステークホルダーが「感情と直感」、「ミッションとパーパス」を挙げているのに対し、経営層はそうではないことが示さたのだという。本調査の一環として実施された、500人以上のY世代とZ世代(1980年以降に生まれた人)のフォーカス・グループを対象としたオンライン調査によると、こうした若い世代はこれからの10年間は、リーダーによる意思決定において「レスポンシブル・リーダーシップ」の5つの要素すべてを反映したバランスの取れたアプローチが重要になると考えがあきらかになった。
また、調査では企業が利益を確保しつつ「レスポンシブル・リーダーシップ」を推進することは可能であるとした上で、実際に「レスポンシブル・リーダーシップ」を推進している多くの企業の業績が好調である事実を指摘。アクセンチュアは本調査の一環として2015~2018年に、2,500社を超える上場企業を対象に、持続可能性、ステークホルダーの信頼、イノベーションに関連した企業の行動と財務上の実績を調査した。
重要な調査結果として、ともに高いレベルでイノベーション実現とステークホルダーの信頼獲得を遂げている企業は、競合企業よりも優れた財務上の業績を達成しており、営業利益が平均3.1%高く、株主還元も大きいことが判明したと述べている。さらに、業界をリードするイノベーションや好業績を達成し、ステークホルダーから信頼を得ている企業においては、「レスポンシブル・リーダーシップ」の5つの要素の数値すべてが、競合企業を上回っていたことも明らかになった。