新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化しつつあった3月3日、急遽必要に迫られた企業や団体のためにと、株式会社メンバーズがリモートワークの導入マニュアル(*1)を公開した。これは同社が2019年夏、2020年に予定されていた東京五輪に備えて東京勤務の社員約470名で一斉リモートワークの実証実験を行うに当たって作成したもの。仕事をする場所(自宅)の環境整備から、社内の諸手続きのプロセス、IT機器の設定利用方法など、リモートワークの際に知っておくべきことや疑問が生じそうなことを具体的かつ詳細に網羅したマニュアルだ。実証実験は成功裏に終わり、期間中の残業時間削減、生産性向上といった効果も確認されたという。
2週間一斉リモートワーク、成功の鍵はビジョンの共有
──昨年夏に行われた2週間のリモートワークの実証実験は、とても成功したようですね。
高野明彦氏(株式会社メンバーズ 取締役 兼 専務執行役員、以下敬称略):はい。私たちは以前から残業時間削減に取り組んできていて、2018年3月期には平均で月14.9時間でしたが、実証実験の期間はさらに残業時間が減り、生産性も向上しました。
──VPNを増強したり、モバイルPCやWi-Fiルーターを貸し出したり、自宅では仕事しにくい社員のためにシェアオフィスを契約するなど、コストもかかっていますよね?
高野:そうですね。ただ、残業代や水道光熱費が下がったので、コストの超過は約20万円に収まりました。
──全体で140ページにわたるマニュアルを作成されるなど、入念な準備をされていたことに感銘を受けました。東京勤務全員でのリモートワークの実現に最も重要だったことは、何でしたか?
高野:インフラ、ツール、マニュアルなどの事前準備の役割はもちろん大きいのですが、目的やビジョンを“合わせる”ことがとても重要だったと思います。
ネット業界では「自由な働き方を実現するためにリモートワークをする」というケースが多いと思います。それもひとつの考え方ですが、僕らはチームでの生産性を非常に重要視しています。ですから、誰がいつどこで働いているのかが分からなくて連携が取りにくくなるのは困ります。目的は「自由な働き方」ではないんです。
もちろん、リモートワークをすることでいろいろな制約が解かれ、働きやすくなる、心身の健康も維持しやすくなる、といった効果はあるでしょう。それも含めて総合的にチームとしての生産性が高まることを目指しました。
つまり、この実験によってチームの生産性が上がらなければいけない。下がっているようだったらこの実験は失敗だと考えていました。だから、生産性を上げる方法について、事前にチームで話し合ってもらいました。どんなことが懸念され、それに対してどんな対処をすればいいのか検討し、チームにとって生産性が高まるやり方を考えてルールを決めなさい、という話をしました。
メンバーズが一斉リモートワーク実証実験に当たって行ったこと
- インフラ環境の整備(Web会議環境準備、ノートPC配布、VPN増強)
- 「完全マニュアル」の作成、全員配布
- 各部署で実施方針を作成
- セキュリティルールの周知
- 臨時オフィスの設置(シェアオフィスやレンタルスペースを契約)
- 必要な人に情報機器“三種の神器”(Webカメラ、ヘッドセット、Wi-Fiルーター)の貸し出し
- 管理職の権限をリーダークラスに権限移譲
- 地方拠点の有効活用
- 「オフ会」「リモート飲み会」補助金キャンペーン
- 「一日在宅勤務やってみた」レポート
メンバーズ「テレワーク実証実験報告書」より。詳細は同社のウェブサイト参照