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製造業DXのススメ

なぜ製造業にはDXが必要なのか──企業を取り巻く状況を“3つの視点”で読み解く

第1回

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 ニュースや新聞の見出しに「DX」という文字が躍らない日はないほど、DXはビジネスを席巻しています。現に多くの方が、多かれ少なかれDXに関連した業務に取り組まれているのではないでしょうか。特に、新型コロナウィルスがもたらした急激な社会環境の変化により、経営層は現場に対してデジタル化の一層の推進を求めています。一方、製造業で実務を担当されている方と接していると、「デジタルを活用した新規事業の創出を求められているが、目指す姿や狙う効果について考えあぐねている」、「製造プロセスの改革といっても、どこからどう手をつけるべきか分からない」といった声を聞くことがあり、悩みを抱えている方が多いと感じています。  本連載では、デジタルを活用した新規事業開拓や製造部門のDXといった業務に携わる読者の方への1つの解として、「DXはこうあるべき」という概念論ではなく、押さえるべき技術の活用ポイントや、DXによって目指す姿や期待できるビジネス効果について、具体的な例を使ってイメージしやすく説明していきます。

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経営課題の解決に技術を役立てる“DX”が求められる理由

 そもそも、デジタルトランスフォーメーション(DX)とは一体何でしょうか。経営層の方々と議論していても、“DX”という言葉は様々に解釈されていますが、私は、「デジタル技術を使って業務や組織を変革し、経営課題を解決すること」だと考えます。

 言わずもがなですが、DXはテクノロジーと密接に結びついています。したがって、導入による成果を中心にDXを捉えるビジネス側の視点のみでは、「なぜ今そのようなビジネスが実現できるようになったか」という問いに答えるには不十分です。一方で、テクノロジーに閉じた視点から語られると、「それがビジネスにどう役に立つのか」という問いに答えきれず、最新技術の紹介で終わってしまう恐れがあります。

 DXを実現するための技術は多岐に亘り、進歩のスピードは加速する一方です。しかも、従来型のITシステムだけではなく、センシング、AI、ネットワーク通信、時系列かつ非構造データの収集と分析など、技術を総合的に捉えなければなりません。刻々と進化する技術を包括的に理解した上で、経営上の課題解決にどう役立てるかが、DXを語る上での難しさだといえます。

 では、なぜ今DXが必要なのでしょうか。DXが求められ、またDXが可能になった背景について、3つの視点から整理していきます。

  1. 国際情勢:各国政治状況による国際間取引
  2. 社会:人口動態、地理的な人口分布の変動
  3. 技術進歩:センシング、演算処理、通信技術の劇的な進歩

1.国際情勢の視点

 DXへの大きなきっかけは、ドイツ連邦政府が国家戦略として発表した「Industry 4.0」です。背景には、製造業における中国の台頭があり、機械分野での製造業を競争力の強みとするドイツとして、今後自国の産業構造を変革しなければ衰退してしまう、という危機感から生まれた取り組みです。また、ほぼ同時期の2014年に、米国系企業の5社によって「Industrial Internet Consortium」が設立されました。

 知名度という観点ではIndustry 4.0の方が知られていますが、実際は、米中間の政治的な摩擦を背景に米国の製造業のデジタル化が大きく進んでいます。米国の外交・通商政策が中国に対し厳しさを増す中、米国の製造業は技術とモノの両面で中国企業と協業することが難しくなり、結果として生産拠点の国内への回帰、サプライチェーンの見直しを迫られているのです。

 ドイツ、米国の例が示すのは、日本でも国家政策のダイナミズムが企業活動に影響をおよぼす可能性があるということです。あらゆる事態に備えてサプライチェーンや生産能力の柔軟性を高めることが、重要な経営課題となります。そのためには、企業活動全体のあらゆるレイヤーで、可視化・分析・判断の次元を大幅に上げ、組織変革と併せてデジタル技術をいかに活用するかを突き詰めなければなりません。

 たとえば、予測しえない事態によりサプライチェーンが寸断された場合、一時的にどこから部材を補給するか。または、海外市場への輸出が制限/禁止された場合、生産能力を抑制し、余剰の生産を他市場に供給するか。こういった迅速な経営判断が求められるケースでは、データを基に複数のシナリオをスピーディにシミュレーションする技術の活用が有効です

2.社会的な視点

 旅行や買い物・レジャーにおいて家族単位で消費行動するケースが減少したこともあり、消費行動は多様化しています。情報源の変遷が人々の購買行動や趣味嗜好の多様化をもたらしていることは、言うまでもないでしょう。1990年代にインターネットが普及し、テレビなどマスメディア以外の情報流通が加速。2010年代からのスマートフォンやSNSの普及によって、ネット上に情報が溢れ、若い世代を中心に情報コミュニティへの参画が加速したことで、趣味嗜好の多様化が一層進んでいます。

 また、発展途上国を含めた世界全体で、都市への人口流入が進んでいます。都市では、高い水準の教育や給与を得やすいというメリットがある反面、物価や家賃が高止まりして、逆に教育や就業の機会が限定的になる危険もあります。そのような場合、住民間の格差が広がり、同一地域の消費者でありながら購買行動がまったく異なるケースが出てきます。

 こうした世代的・地域的な人口動態により、生産者はより柔軟に製品を供給することが求められています。また、オンライン・携帯端末を介した消費行動、ネット上の評価が大きく購買行動に影響を与えることから、マーケティングもデジタル視点での強化が必須になります

 そして、2020年に突如世界中に大きなインパクトを与えた新型コロナウィルスにより、企業活動は大きな変革を余儀なくされました。販売や製造の現場では、“オンサイト”、すなわち人の実在をできるだけ減らすオペレーションが具体的かつ喫緊の課題となっています

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この記事の著者

志田 穣(シダ ミノル)

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