DXが注目されている現在の日本の課題
藤井保文氏(以下敬称略):お二人はインターネットバブルの時代から経営されてきて、インターネットと共に20年以上歩まれてきました。今回のイベントではDXを一つの大きなテーマに掲げていますが、お二人から見て、この数年で急速にDXに注目が集まっている潮流をどう見ていますか。また、その中で日本の課題は何でしょうか。
川邊健太郎氏(以下、敬称略):Internet ExplorerがWindows95に標準搭載された1995年に私は大学3年生で、「これを使って何かやりたい」と夢中になってインターネットサービスを作り続けてきた25年間でした。新型コロナウィルスの流行は世界にとって非常に不幸な出来事で、今もなおそれが続いています。しかし、デジタルが世の中にある程度行き渡っていたことが不幸中の幸いで、それは私たちもYahoo! BBの事業などで頑張った成果だと思っています。インターネットの環境やその上でのサービス、EコマースやZoomなどのオンライン会議システム、YouTubeなどの動画配信サービスが存在する現代と、スペイン風邪が流行った100年前とでは、私たちが受ける影響はまったく異なるはずです。一方で、今回のコロナ禍でも、公共部門がデジタルを使いこなしていれば減らすことができた不幸が数多くあったことも否めません。次に大きなアクシデントが起こった際には、もっとリスクを減らして管理できる社会にするために、今後は日本全体にデジタル、インターネットの力を普及させなければという課題意識があります。
遠藤直紀氏(以下、敬称略):実は私は1998年頃、川邊さんが立ち上げたインターネットのベンチャー企業の電脳隊でアルバイトをしていたのですが、当時も川邊さんと「インターネットは世界を変える」と盛り上がっていました。しかし、その変化は意外とゆっくりだというのが実感で、デジタルに関して大手企業が本気を出し始めたのは2010年頃という印象があります。ビービットでは企業の支援という形でデジタルの普及に取り組んでいますが、デジタルによってできるようになることと、実際に企業がそれを採り入れることの間には大きな隔たりがあり、そのギャップを埋めるには相当な努力を要するのが現状です。
藤井:お二人は25年間インターネットの可能性を信じて進んできたわけですが、なぜこんなに社会への浸透が遅かったのでしょうか。
川邊:やはり使っていたかどうかがすごく重要な要素でした。私の元上司で現在は東京都副知事の宮坂さん(宮坂学氏)に「なぜ行政のオンライン化が進んでいないのか」と尋ねた時も「使っていないから」という返答でした。提供側としてはそのような“使わなかった”人たちも使えるようなUI/UXを提供してこなかった点は反省すべきですね。
遠藤:確かに今日本ではワクチンの接種が始まっていますが、高齢者がネットで予約するのは難易度が高いでしょう。彼/彼女らが直感的に操作できるようにならないと、本当の意味での普及はしないですよね。
川邊:そうですね。AmazonとGoogleによる音声認識の開発競争を、データ取得目的だと思い冷ややかに見ていましたが、高齢者が端末に話しかけて操作できるところまでいかないと、本当の意味でのデジタル化は達成できないのだと気づきました。