DX人材に求められる“4つの力”
平原氏が“最もクリティカルな問題”と評する「人材リソース不足」は、当然といえば当然の話だ。元々企業は“人”によって成り立っており、適したスキルセットを持った人材がいるからこそ、事業も継続してきたといえる。それはDXも同様であり、DXのスキルセット、ケイパビリティを持っている人材がいるからこそ、優れたDX/AI施策が検討・実行できる。
そこで多く見られるのが、IT企業などから優れた知見を持った人材をCTOなどに招き、強力なリーダーシップのもとDXを推進していくという方法だ。平原氏は「もちろん、そうした外部の知見を導入することは必要だが、“それだけ”ではダメ」と語る。つまり、施策を現場で実行していくDX人材が不足していては、せっかくの施策も絵に描いた餅になり、実行することができない。いわばDX部門だけでなく、営業部や商品部、マーケティング部といった、事業部門のメンバーが、データ/AIに関するデジタルリテラシーを高め、組織全体のケイパビリティを高めていくことが必須というわけだ。
それでは、DX人材に求められるデジタルリテラシーおよびケイパビリティには、何が必要で、何が不足しているのか。それを紐解くと4つの力に集約されるという。
まず1つ目は、ビジネスの課題背景を理解した上で、ビジネス課題を整理し解決する「ビジネス力」だ。そして、2つ目にデータサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装・運用できる力である「デジタルエンジニアリング」。3つ目の「システムエンジニアリング」はシステムとデータと連携させて組み込み、統合を行う力だ。そして、4つめには、情報処理や人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し使う力である「データサイエンス」を挙げる。その中で、「デジタルエンジニアリング」と「データサイエンス」に関する人材が特に不足しているのが、大きな問題だと語る。
これらのリテラシー・ケイパビリティを備えている人材は日本全体で慢性的に不足しており、人材の“奪い合い”が生じているという状態だ。DXを進めるには、プロダクトマネジャーやビジネスデザイナー、データサイエンティストなど多彩なデジタル人材が必要になる。それを補う方法は以下の3つ。
- 人材の新規採用
- 内部人材のスキルアップ
- 外部ベンダーの利用
平原氏は「DXを内部の人材だけで行おうとする企業も少なくないが、それでは競争力を生み出していく、本質的なデジタルトランスフォーメーションにたどり着くのは難しい。社内外の人材を適材適所で活用していくことが必須」と語る。そして、データサイエンティスト人材を内製化している企業の多くでは、「事業やプロジェクトフェーズごとにデータサイエンティストに異なる人材・スキルが求められる」「習熟度・資質が異なり、必ずしも1人で満たせない」といった課題に直面しているという。そして人件費が高額になりがちである上、働き方がジョブ型にシフトしていることもあり、人材流出も少なくない。せっかく獲得した人材も維持が難しいというわけだ。
そこで平原氏が提案するのが、「共創パートナーを見つける」という考え方だ。DXの目的は「デジタル技術を使った新しい価値創造」であり、今までの延長線上ではない新しいビジネスの創造が求められるが、自社内ではなかなか既存概念を捨て去ることが難しい。そこで、最先端のデータ/AI技術を持ち、特定ビジネスドメインの知見や経験、ノウハウ、技術を持つパートナーを活動に取り入れながら取り組みを行っていくことが望ましい。
平原氏は、「それが叶えば、自社ビジネス×技術の組み合わせでデジタルを使った新しいビジネス価値創造を実現できる。また、激しい時代の変化に耐えうるシステムが不可欠であり、アジャイルな仮説・検証が必須となる。そのためには、事業会社とデジタルパートナーが共通理解を持ち、中長期に共創活動を行っていくことが必須」と強調し、「ぜひ、自前主義を捨てて、今必要としていることを補ってくれる共創パートナーを見つけてほしい」と語った。