ビジネスモデルごとに着眼すべき重要指標が異なる
この本が実用的であるのは、着眼すべき分析のポイントを、ビジネスモデル別に解説していることです。 これまで、アナリティクスに関連する本は、顧客分析やWebでのアクセス向上やコンバージョン率、統計分析など、それぞれの用途の事例が出ているものが多かったのですが、自分がどのビジネスをおこなっているかによって分析のポイントは異なるため、実務者の業務に適用するには、ややハードルが高かったり、用いられている事例が、実際の事業とかけ離れていたりするというものが多かったと思います。
その点、この本では、分析すべき指標を大きく6つのビジネスモデルにわけて整理していて、読者(ユーザー)は、自分の属するビジネスの項目、もしくは類似の項目から、ざっくりと理解することができます。
- ECサイト:コンバージョン率、年間購入回数、離脱率、顧客獲得コスト、平均顧客単価などの指標、オンライン、オフラインの組み合わせなど
- SaaS:エンゲージメントの計測、チャーンなど
- 無料モバイルアプリ:インストール数、ARPU、課金ユーザー率など
- メディアサイト:収益モデル(スポンサー、広告表、アフィリエイト)、オーディエンス、広告在庫、広告料、コンテンツと広告のバランス
- ユーザー制作コンテンツ(UGC):コンテンツ制作とインタラクション、エンゲージメントファンネル、コンテンツのシェアと拡散
- ツーサイドマーケットプレイス:購入者と販売者の率、在庫の率、購入者と販売者の評価、不正や取引の継続、オークション
これら6つのビジネスモデルごとに、収益のプロセスと分析のポイントが、わかりやすく図解されています。
今いるビジネスのステージを把握する
この本の後半の部分は、それぞれのビジネスの成長段階をステージとして解説しています。
リーンアナリティクスでは、すべてのビジネスに以下の5つのステージを当てはめます。 「共感」「定着」「拡散」「収益」「拡大」、それぞれ のステージのプロセスは、町のレストランもWebのビジネスも大企業のエンタープライズソフトウェアも同じだと考えます。まずニーズを発見し、見込み客に入り、試行錯誤を後に拡散し、収益化をし、さらに拡大していくというプロセスで、このプロセスを誤った指標で見誤ると失敗につながるということです。
まず自分たちのビジネスが、上記のどのビジネスモデルのどのステージにいるかを把握すること、その上でアナリティクスをおこなうことが重要です。
スタートアップで重要なのは、ステップごとに重要な指標をひとつだけ選んでフォーカスすることだと述べ、著者はこれを、「最重要指標(OHTM)」と呼びます。このOHTMと、これまでのビジネスモデル、ステージがマトリックスとして解説されています。
20章にあるマトリックスは、本書の中でもかなり「使える」ツールであると思います。
全体的に言えるのは、この本は、起業家が自分たちのビジネスのアナリティクスの要点をつかむのに非常に便利な本だということです。分析の具体的な方法や技術については、深く書かれてはいません。しかし、自分たちのビジネスモデルを見据え、バイアスを修正し、ステージごとの指標で計測していきながら、打ち手を講じていく。そのための地図を求めている人にとっては、打ってつけかもしれません。
また、巻末に、ロフトワークの林千晶氏、訳者の角征典氏も述べているように、ベンチャーの起業家だけではなく、一般企業や組織内の「事業開発者」「企業内起業家」の人にとっても使える本であるといえるでしょう。
『LEAN ANALYTICS スタートアップのためのデータ解析と活用法』(アリステア・クロール,ベンジャミン・ヨスコビッツ (著), 林 千晶 (解説), エリック・リース (編集), 角 征典 (翻訳)
発行: オライリー・ジャパン