持続可能な官民連携モデルでシェアサイクル事業が急拡大
石野真吾氏(以下、敬称略):2021年に市制100周年を迎えた千葉市では、これまで国家戦略特区としてスマートシティ化へ向けた様々な取り組みを行ってきました。まずはその、主な内容についてお聞きしてもよろしいですか。
髙橋浩史氏(以下、敬称略):千葉市は、以前から幕張新都心を中心に先進都市をイメージした街づくりに着手しており、2016年には国家戦略特区の指定を受けています。千葉市といえばドローンのイメージを持つ方も多いかもしれませんが、これは千葉市が、東京湾臨海部の物流倉庫から幕張新都心の高層マンションまで、ドローンによる配送の実現を目指した「ドローン宅配構想」の実現に向け、様々な実証実験に取り組んでいるためだと思われます。このほかにも、たとえば「パーソナルモビリティの自動運転」に取り組んでおり、現在は社会実装に向けて検証を重ねている段階です。
石野:モビリティの施策については、そもそもどのような課題感に基づくものなのでしょうか。
髙橋:このエリアには幕張メッセやZOZOマリンスタジアム、県立幕張海浜公園など魅力的なスポットは揃っているのですが、スポット間の往来が少なく、駅とそれぞれの施設への単純往復で終わってしまうことから、回遊性の向上が課題となっています。
石野:私自身も市民の一人なのですが、このエリアを回遊するには自動車が欠かせないと感じていました。これは既に取り組まれているシェアサイクルとは異なる取り組みなのでしょうか。
吉野嘉人氏(以下、敬称略):シェアサイクル事業は、2013年に本市と千葉市観光協会が共同で始めた「幕張新都心コミュニティサイクル事業」社会実験がベースとなっています。ただこの実証実験では、当初、デポジット方式で始めたのですが、自転車にGPS機能が付いていなかったため、想定外の場所で自転車が放置されるようなことが相次ぎ、1年半ほどでいったん中止しています。その後、2017年になって実施事業者をあらためて公募したのが現在のシェアサイクル事業で、約2年間の実証実験を経て、2020年から本格実施に至りました。
石野:対応エリアや事業者も、順調に増えているようですね。
髙橋:そうですね。前回の実験から現在までの間にスマホが普及し、予約も決済もアプリで行えるようになったことが大きく、事業として十分に採算が取れることがわかったので、幕張新都心以外のエリアにも拡大しています。
石野:他の自治体を見ていると、“採算性”がボトルネックになっているケースが散見されます。再び公募してチャレンジするにあたり、どのように解決されたのでしょうか。
髙橋:幕張新都心エリアでは駅から少し離れた地域にも大勢の方が住んでいるので、潜在的にはシェアサイクルの需要がありました。それが実証実験の期間中に浮き彫りになり、通勤や通学に使ってもらえるケースが非常に多いことがデータで見えてきました。そこで、シェアサイクル事業は、通勤・通学ニーズが集まっている地域をターゲットに展開することにしました。
吉野:卵が先か鶏が先かという話ではありますが、シェアサイクル事業はエリアを限定すると、どうしてもユーザーが限られます。その意味で採算性はハードルの高い問題ですが、うまくバランスを取りながら広げていけば、やがて全体も大きくなり、利用が促進されていくと感じています。
石野:こうした実証実験は、民間業者に委ねるケースも少なくないと思います。そこでこれは千葉市民としての視点でもお聞きしたいことですが、こうした事業を運用するにあたり、市としてどのような条件を設定したのでしょうか。
吉野:千葉市として、公費は一切投入しないことを事業者公募の際の前提条件としました。ただ、ステーションの設置にあたり、市が所有する土地を無償で貸与することはあります。逆にいえば、事業者サイドには利用の見込める駅前広場などの公有地を中心に開拓できるメリットが生じるということでもありますね。
石野:それは素晴らしいですね。実証として始まった取り組みでも、結果的に公費が無くなったタイミングで事業撤退するケースもありますからね。持続可能な官民連携モデルを進めていく上で重要なポイントですね。
髙橋:そうですね。公費を使わないから、再チャレンジできたともいえると思います。