ミッション・ビジョンがある中で「ミツカン未来ビジョン宣言」を策定した理由
永井恒男氏(以下、敬称略):ミツカンさんは2018年にZENBという、植物を普段食べていない部分まで可能な限りまるごと使った食品ブランドを始められましたね。「人と社会と地球の健康」に貢献する、ウエルビーイングな新しい食のライフスタイル提案ブランドだと知り、興味を惹かれて購入しました。それがとてもおいしかったので、ホームページを拝見したのですが、御社の大事になさっている「2つの原点」や「グループビジョンスローガン」、「ミツカン未来ビジョン宣言」などが、私たちが考える「パーパス」に非常に近いと感じました。
私たちはパーパスを自社らしさと社会的な価値、つまり「らしさ」と「ためになる」を示すものだと定義しています。まずは、「2つの原点」と「グループビジョンスローガン」をそれぞれご紹介いただけますでしょうか。
濱名誠久氏(以下、敬称略):「2つの原点」はずっと変わらずミツカンが守り続けていくことを示しています。1つ目は「買う身になって まごころこめて よい品を」です。ここにはお客様、あるいはステークホルダーや社会が変わっていけば、我々がやることも変わっていくという意味も含んでいます。そして変わっていくこと自体が2つ目の原点である、「脚下照顧に基づく現状否認の実行」につながっています。つまり、常に事実に向き合って自分自身を振り返りなさいということです。
永井:“変わり続けること”がミツカンにとって“変わらないこと”になるわけですね。歴史の長い企業は常に変わり続けているものですよね。「グループビジョンスローガン」はどういったものなのでしょうか。
濱名:これは人のいのちの源である食品をつくっているという、誇りと責任を表した言葉で、「やがて、いのちに変わるもの。」としています。こちらは弊社が創業200周年を迎え、2004年に対外発信したもので、タグラインにも入れています。これらを下敷きに、2018年に発表したのが「ミツカン未来ビジョン宣言」です。
永井:「2つの原点」と「グループビジョンスローガン」がありながら、「ミツカン未来ビジョン宣言」を出されたのには、どういった理由があるのでしょうか。
濱名:2019年からの中期経営計画を考える中で、これからの10年の環境変化とステークホルダーの変化を意識しました。今後10年の変化は、世界人口の大幅な増加とそれにともなう水や食料の不足、日本の少子高齢化にともなう人口減の影響が大きいと考えられますし、ステークホルダーに関してもZ世代、ミレニアル世代の意識の変化は大きいと考えました。さらに、その頃盛んに言われていたDXを考えると、商売のあり方を変えていかなければいけないとも考えました。
加えて、これは社内のニーズだったのですが、北米でパスタソースの企業を買収したり、イギリスでピクルスメーカーを買収したりと、当時、社内の海外比率が急激に高まっていました。元々弊社は、「業績が伸びても『ミツカンらしさ』がなければ失敗だ」というぐらい“らしさ”にこだわる企業です。ただ、「ミツカンらしさとはこれです」と明示されているわけではなく、ミツカングループ代表の中埜(和英氏)も常に個々の社員が「ミツカンらしさ」を考え続けることが重要だと語っています。しかし、買収によってグローバル化が進んだ結果、様々な文化的背景を持つ人が入ってきて、どうやってグループ全体の求心力を作っていけばいいのかという点に課題が生まれました。そこで、「2つの原点」「グループビジョンスローガン」を中心に据えて、目指す姿を明確に出すという新しいやり方で、中期経営計画策定の中で「ミツカン未来ビジョン宣言」を作ることにしたのです。