後手に回った新規事業 新たな課題を「VISION2030」へ
──3月に公表された企業ビジョン「VISION2030」ですが、これはどのような過程を経て策定されたものなのでしょうか?
西田 博貴氏(以下敬称略):VISION2030は、我々が約10年前に掲げた企業ビジョン「Shinka2020」の総括も経て新たに策定されています。まずはShinka2020が策定される以前の状況からお話します。
東急建設は、1991年のバブル崩壊によって巨額の不良債権を抱えてしまいました、そして、1990年代半ばから建設業界の市場規模も半減し、業績も著しく悪化。これらを受け、弊社は“痛みを伴う再建計画”によって再生への道筋を模索することになりました。2003年には会社分割によって、新生東急建設として新たなスタートを切りましたが、2010年代はじめあたりまで、弊社は非常に厳しい状態が続いたのです。Shinka2020は、そのような逆風下で策定されました。
Shinka2020では、本業である建設の「深化」と、新しい事業領域への「進化」、そしてそれらの融合によって企業の「真価」を発揮するという、「3つのShinka」を掲げました。それは本業である建設請負の力を高める一方で、国内建設市場の縮小を見据え、建設請負以外の新たな事業領域にも挑戦し成果を上げる、新たなゼネコンの姿を目指したものだったわけです。
しかしながら、予想に反して2013年あたりから市場が好転し始めます。2011年に起こった東日本大震災後の復興事業をはじめ、アベノミクスなどの経済政策や、2020年の東京オリンピック開催決定をきっかけとして、次第に再成長の基盤が整ってきたのです。
実際、この間に建設事業では、渋谷スクランブルスクエアなどをはじめ、多くの成果を出すことができたと考えています。
しかし一方で、国内建設市場の好転により、掲げていた新規事業への挑戦が後回しにされてしまいました。その反省を踏まえ、2030年のビジョンでは複数のシナリオを検討しつつ、本来の課題である市場縮小を想定した事業の在り方や、機運が高まりつつあった気候変動への取り組みを重点的に考えることになったのです。
策定にあたり何より重視したことは、「社員全員にとって腹落ちするものにしよう」という意識でした。そこで経営層やミドル、若手社員から成る55人のメンバーを参画させ、2020年6月頃から半年間かけて策定を行いました。まずは2030年、そしてその先の2050年に世の中がどう変化しているのか全員で考え、そのとき東急建設はどのような企業でありたいか。そして、そのために我々はどういう方向に進んでいくべきかを議論しました。これにより、「会社が社員に対し課すもの」というイメージを払拭し、“不確実な将来の変化に社員が自律的に対応していくもの”と捉え直していったのです。