このまま対策しなければ経済損失は「-95兆円」
同レポートによれば、日本をはじめとする世界各国が現在の水準と比較して炭素排出の大幅な削減を実行に移さなければ、2070年までに地球の温暖化は平均3℃進む。この最悪のシナリオをたどると、気候変動が原因で日本が被る経済損失は、現在価値に換算して約95兆円になると予測されるという。
セクターごとの内訳を見ると、サービス業で「-41兆円」、製造業で「-17兆円」、「小売業・観光業で-15兆円」、その他で「-21兆円」の経済損失になる。
このモデルでは、気候変動の経済的な影響を以下の6つに整理し、試算している。
- 労働者への影響:熱ストレス、労働者のスローダウン、能力低下により労働生産性が低下する。
- 生産可能な土地の減少:海面上昇による生産可能な土地の減少と陸上の活動の生産性向上により低地と沿岸部が影響を受ける。
- 生産性と投資の行き詰まり:新しい生産性の高い資本ではなく既存資産の修復に投資が回され経済が低迷する。気候変動により経済成長が行き詰まる。
- 健康と福利の衰退:死亡率と疾病率の上昇によって生活水準や労働人口の生命が脅かされる。
- 世界のお金の流れの混乱:観光業などへの国際的なお金の流れが大幅に縮小し、企業、雇用、生活に影響が及ぶ。
- 農業の損失:気候変動に対する不作為は農家ができることに限界をもたらす。作物収量の変動により農業セクターの生産性が損なわれる。
しかしこの試算は、世界各国がこのまま何のアクションも起こさず最悪のシナリオをたどった場合のものであって、未来は決まっているわけではない。「気候変動への対応をコストではなくむしろ機会と捉えることで、388兆円の経済効果が見込めるポジティブなシナリオを描くことも可能」と勝藤氏は言う。