社会変化への対応として必然的なDX、自社の存在意義を再考したパーパスの制定
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、持株会社であるMUFGのもと、銀行、信託銀行、証券、クレジットカード会社、コンシューマーファイナンス会社が連なる、総合金融グループだ。三菱UFJ銀行はその中で、個人3400万人、法人120社の顧客基盤を有し、リアルチャネルとして銀行・信託・証券合わせて約540拠点を擁する。また、東南アジアを第二のマザーマーケットとして捉え、2013年にはタイのアユタヤ銀行、2019年にはインドネシアのバンクダナモンをそれぞれ子会社化。銀行を通じてASEAN地域におけるローカル経済の発展に寄与することを新たな戦略としている。
三菱UFJ銀行がデジタル戦略に力を注ぐ背景には、日本の金融機関を取り巻く環境の大きな変化がある。
経済成長が鈍化する中で世界的な低金利が続き、日本も2016年以降はマイナス金利の状況にあり、脱却の目途もついていない。金融機関にはかなり厳しい環境が続く中で、三菱UFJ銀行の預かる80兆円近い個人預金が、全く収益を生む資産となっていないのが実情だ。「米中の金融機関に比べても劣後的な立場にあり、難しい経営環境にある」と上場氏は語る。
その一方で、顧客行動の多様化が進み、コロナ禍のさなか、「現金やATM画面に触りたくない」「対面での面談をしたくない」という顧客が増加。過去5年間で来店客数が半減する一方、インターネットバンキングの利用は倍増しており、新たな店舗チャネルや顧客サービスのあり方が問われている。
加えて、AI/ブロックチェーン、量子コンピューター技術などテクノロジーの日進月歩によって、これまで常識とされていたものが一気に塗り替えられるリスクは常に存在する。GAFAやモバイル決済サービスを手がける“Pay”系サービスが金融サービス事業に参入するなど、異業種参入の影響も既に感じられるほどになった。
上場氏は、「健全な危機感をベースにMUFGも金融インフラとしての責務を果たしつつ、社会の変化に順応していく必要がある。特に対面対応の減少はお客さまへのサービスのあり方だけでなく、グループ内でのコミュニケーションにも大きな影響を及ぼしており、働き方やエンゲージメントの重要性が高まることは間違いない」と語る。
このような外的環境変化を踏まえ、MUFGでは「今の延長線上に我々の未来はない」とトップから全社に共有。変化を正しく読み解き、飛躍のチャンスに変えるために、原点に立ち戻って「なぜMUFGは存在するのか」「自分たちの存在意義・パーパスとは何か」「より良い未来を目指す人たちのためにMUFGができることとは」と問い直しを行ってきた。そして、一連の議論をベースとして、2021年4月には、過去9年間にわたってMUFGの“よりどころ”となってきた経営ビジョンを「MUFG Way」へと進化させ、MUFGのパーパスを「世界が進むチカラになる。」と定義している。
上場氏は、「金融サービスはあくまでも産業界の黒子。実業としての日本・世界経済、お客さまが成長して初めて金融サービス事業の成長もある。その位置づけを定義し、世界が進む力になりたいという思いを込めて作られた」と語る。
この新たな経営ビジョン「MUFG Way」のもとでMUFGが“どのような力”になるかをまとめたのが、2021年度4月からスタートした中期経営計画だ。そこでは、3年後に目指す姿を「金融とデジタルの力で未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」と位置づけており、国内リテール領域も重点戦略の1つとして掲げ、新たに事業本部が設立されている。