インベストメントチェーンではなく「リスクテイキングチェーン」
中神 康議氏(以下、敬称略):前編では、スタートアップのビジネスが資本集約的になってきていて、必要なリスクを取るには資本市場での説明能力が不可欠になってきている、というお話がありました。
これはすごくいい流れですよね。経営って、もっとヒリヒリする存在であってほしいから。「こんなにリスクテイクして大丈夫か」と慎重になりながらも、「でも、やりたい」という経営者がいて、投資家もヒリヒリしながら投資する、そんな「三位一体の経営」をしてほしい。世の中ではそういう関係を「インベストメントチェーン(投資の連鎖)」と言ったりするけれど、本当は「リスクテイキングチェーン」じゃないといけないと思っています。
小林 賢治氏(以下、敬称略):なるほど!
中神:リスクテイクできる企業とその経営者がいて、そこに張るファンドマネージャーがいて、そのファンドにアセットオーナーがリスクマネーを出すという「リスクテイキングチェーン」が本来のあり方ではないでしょうか。「インベストメントチェーン」だと、「スタートアップはガバナンスを揃えましょう」「投資機関はスチュワードシップ・コードに従いましょう」などのように、チェックボックスにチェックをいれるような対話になってしまって、ちっともヒリヒリしない。結果、リターンなんか出るはずがない。
小林:加えて、働く人もリスクテイクして業界に飛び込んでくるようになっていますよね。大企業で働き続けていれば安定した環境が約束されていた人も、それを捨ててくるわけです。昔はスタートアップに来る人材はちょっと変わり者みたいな人が多かったのですが、最近は外資系金融のエースや総合商社のスーパーキャリアの人もスタートアップ業界に入ってくるようになり、多様な人材が働いています。業界全体の経営リテラシーが向上し、色々なステークホルダーを巻き込めるようになるという好循環が起きています。
中神:東大生にキャリアについて聞いたところ、一番人気があるのは起業だと言っていました。10年前では考えられなかったことですよ。それは、東大の先輩など、周りに成功者が増えたからなんですよね。
小林:起業でうまくいかなくても不幸になるわけじゃない、ということもあります。日本は失敗許容度が低い社会だと言われるけれど、起業して失敗したら個人で株を買い取らされるなんてことは、今はありません。VC側にも「もう一回やれよ」とお金をつけてくれる人がいて、リスクが下がっているわけです。むしろ「どんどんやればいいじゃないか」という雰囲気になってきて、すごく良い流れですよね。