スタートアップとの協業による新事業の創出
柿崎充氏(以下、敬称略):三枝さんは、2020年にブリヂストンから出光興産に移られてから2年半ほど経ったところですよね。本日はまず、三枝さんが出光興産にジョインされて以降に生まれた、新たなサービスについてお伺いいたします。
三枝幸夫氏(以下、敬称略):ゴーストレストラン研究所のフードデリバリーサービス「ゴーストキッチンズ」や、やさいバスの野菜直販サービス「ご近所八百屋」、スマートスキャンの「スマート脳ドック」など、スタートアップと協業したサービスのトライアルを始めているところです。スマート脳ドックに関してはちょうど、資本業務提携をして事業化が始まったところですね。
柿崎:それらの事業開発はデジタル・ICT推進部で進めているのでしょうか。
三枝:そうです。これは業界の特徴だと思うのですが、現在の主力事業である化石燃料系のビジネスから転換していくことが、全社の課題となっています。我々はデジタル部門として、自社で新しく立ち上がるデジタルサービスのサポートもしますし、先ほどお話ししたスマート脳ドックのようなデジタルを活用した新規ビジネスを立ち上げて事業化していく役割も担っています。
他にも超小型EVを活用した新しいモビリティサービスの計画もあり、それは「モビリティ戦略室」という専門部署が推進しています。そこでは車両の供給体制や、サービスモジュールなどを開発中です。そして、その車を使ったカーシェアや、モビリティサービスのデジタルサービス領域は、我々のデジタル部門と一緒に開発しています。
柿崎:スマート脳ドックのような新しいサービスは、社内のアイデアをすくいあげてスタートしているのでしょうか。
三枝:脳ドックは、出光興産がパートナー参画している、スクラムベンチャーズさん主催の「SmartCityX(スマートシティエックス)」というプログラムで生まれたアイデアです。2020年8月から2021年6月まで実施したこのプログラムでは、大企業やスタートアップに加えて自治体なども参加してワークショップが行われました。
柿崎:「なぜ出光興産が脳ドック?」と聞かれることも多いと思うのですが、出光興産だから、というポイントはあるのでしょうか。
三枝:我々はサービスステーションのネットワークをもっており、地域の困りごとを解決するプレーヤーになっていきたいと考えていました。特に“健康”はどの自治体にも共通する課題です。もちろん様々なヘルスケアの事業者がいるのですが、高度予防医療の分野は設備も必要でスタートアップだけで進めることが難しい領域です。ワークショップなどを通じて、約6,000拠点ある出光のサービスステーションを活用した脳ドックというアイデアが生まれました。
ただ、人口が減少している地域にMRIを設置しても、稼働率が上がらず採算が取れません。そのとき、同じプログラムにスタートアップとして参加していたスマートスキャンさんが、まずは移動型のMRIでニーズのある地域に展開することを提案してくださいました。それがスマート脳ドックを進めるきっかけです。現在は、いくつかプロファイルの違う都市を回りながらデータを集め、徐々に拡大していこうとしている段階です。