現場とユーザーに強いリーダー
柿崎充氏(以下、柿崎):私はSansanに勤める傍ら、CDO Club Japanというグローバル団体の日本支部で事務局をやっております。突然ですが、以下の画像をご覧ください。2018年のCDO Summitというイベントの登壇者を紹介したもので、左はニューヨーク開催、右が東京開催です。

2022年のボストン開催、2023年の東京開催を見ても、今もこの状況は変わっていません。

牧島かれん氏(以下、牧島):ニューヨークとボストンでは女性の割合が多いですね。デジタル業界ではCxOの女性比率が高いのが特徴ですよね。
柿崎:おっしゃるとおりです。私はこの写真を講演などでよく提示しているのですが、女性の割合が多いことになかなか気づかない方もいます。日本では、役職者がDXのリーダーになることが多く、男性がリーダーシップをとりがちですが、海外は女性が多いですね。海外で「どうして女性が多いのですか?」と聞くと、「そもそもなぜそんな質問をするのか?」と逆に不思議に思われます。たしかに、本来性別は関係ない職種です。現場やユーザーを知っている人がデジタルの責任者になるべきで、海外はそれを“普通”にやっているから、男女比が半々になるわけですよね。
牧島先生がデジタル大臣に就任した際、一部メディアでは「若手女性議員が大臣に抜擢された」という報道もありましたが、私はそうではないと思っています。IT総合戦略室時代の積み上げもありますし、『日本はデジタル先進国になれるのか?』に書かれているように、実際に障がい者に会われたりいろんな現場に出て実験したりしている実績もあります。現場とユーザーに強い方だからこそ第2代デジタル大臣を任されたのだろうと思っています。
牧島:ありがとうございます。アクセシビリティチームの話も書籍に書きましたが、デジタル庁のアクセシビリティチームには実際に障がいを抱えながらもエキスパートである方たちがいるからこそ、デジタル庁のWebページは誰がアクセスしてもメッセージが伝わるようシンプルな作りになっています。
柿崎:なるほど。人材の話だと、デジタル庁はCxOを民間企業から採用していますよね。行政としては思い切った人材登用で、日本のデジタル庁は、世界から見てもかなり進んでいると感じます。
牧島:CxOの皆さんには定期的に集まっていただき、意見交換をしています。よくある会議室で意見を出し合うのではなく、机も椅子もない空間で、床に座ったり立ったりと、それぞれが一番アイデアを出しやすいスタイルでブレストできるようにしています。いわゆるグローバルのテックカンパニーのスタイルをそのまま持ち込んでいるのはデジタル庁ならではだと思います。専門家の集団があるからこそ、大臣も「CxOだったらどう考える?」と幹部の会議で直接聞くことができます。専門家がすぐ身近にいる環境はとても重要だと感じています。
柿崎:実際の運用現場に何回も足を運ばれている話も書かれていました。私は普段、経営者の方とよく話をするのですが、口では「現場が大事だ」と言っていても、自身が実行できないリーダーも少なくありません。先生は普段から現場を大事にされていますよね。
牧島:実際に行かないと気づけないこともあるので、現場は重視しています。たとえば、日本科学未来館などが開発を進める「AIスーツケース」について、まずは浅川智恵子館長とお会いしてお話を聞き、体験として自分でも使わせていただきました。そこで「日本では一般社会に近いところでの実証実験が十分できていない」「日本の空港での実証実験はしたことがない」という課題を耳にして、デジタル庁としても支援したいという話になりました。帰りの車内で行った大臣室と広報のメンバーとのブレストで、新千歳空港はどうだろうかというアイデアが出て、その後すぐに話が進みました。実際には「AIスーツケース」の開発のタイミングもあり数ヵ月空きましたが、2022年7月には新千歳空港で実証実験を実施しています。
これは、私自身が現場に行くことで、次のアクションをクイックに決めることができた好例です。