ガートナージャパン(以下、Gartner)は、国家間の政治に起因するテクノロジガバナンスの問題により、「デジタル地政学」が多国籍企業のCIOにとって取り組みを強化すべき課題になっているとの見解を発表した。
地政学は、国家間の力関係における地理的影響を説明するもの。国家間の競争は、結果として、経済、軍事、社会など、様々な領域へと波及するという。これらの各領域でデジタルテクノロジの重要性が増していることから、デジタル地政学は、影響力を持つカテゴリーとして台頭しつつあるとしている。
Gartnerの調査では、取締役の41%が、「地政学的なパワーシフトと混乱」が業績に対する最大のリスクの1つであるとしている。2026年までに、多国籍企業の70%は、リスクヘッジによって地政学的リスクにさらされる割合を抑制するために、事業展開する国を調整すると予測しているという。
Gartnerは、CIOは企業のリスク評価のほか、必要な場合には、デジタルシステムの再設計においても中核的な役割を果たさなければならないと提言。CIOは、デジタル地政学の4つの側面を管理または活用する必要があるという(図1参照)。
デジタル地政学の4つの側面について、同社は以下のように述べている。
1. デジタルソブランティ(主権)を守る
多国籍企業の法令遵守義務は複雑で、常時変化、拡大しているが、その主な原因となっているのがデジタルソブランティ(主権)である。各国政府は、EUの一般データ保護規則(GDPR)のようなプライバシー法などの立法権と監督権限でデジタル主権に取り組んでいるほか、域外の法律制定にも目を向けるようになっているという。事業拠点や市民の居住地にかかわらず、当該法域の法律を遵守することが求められる。CIOの役割は、法的環境を意識し、IT組織が企業全体のコンプライアンスをどのようにサポートしているかを他の経営幹部に明確に説明することである。
2. 自国のテクノロジ産業を確立する
テクノロジ産業は、世界中の公共政策立案者にとって非常に関心の高い分野とのこと。多くの国の政府は、自国のテクノロジ産業の発展に投資している。例えば、米国は国内での半導体製造を支援する法案(通称:CHIPS法)を制定することで、世界の半導体製造における地域的不均衡に対処。オーストラリアは、「デジタル経済戦略 2030」において、テクノロジ分野の構築を重要な柱として盛り込んでいる。
国内のテクノロジ産業の確立に向けた取り組みは、CIOが積極的に政府に関与する機会を創出する。CIOは、現地の専門家や、政府による共同イノベーション支援に最もアクセスしやすい国において、特定のイニシアティブをローカライズする必要がある。
3. 必要な軍事力を達成する
国家の軍事・安全保障活動のデジタル化が進むと、様々な国で一部のテクノロジの利用が制限される。企業やCIOは、既存の軍事・安全保障テクノロジのデジタル化に加え、サイバー戦争という新たな領域からも影響を受ける。
CIOは、ディスラプションを最小限に抑えるために、ベンダー・テクノロジのリスクを扱うセンター・オブ・エクセレンス(COE)を設立し、政府の規制が進むことによる主要サプライヤーへの影響の定期的評価を任務とすべきである。
4. サイバースペースガバナンスに対して直接主導権を発揮する
サイバースペース・ガバナンスの主導権を巡る国家間競争は、多国籍企業のオペレーションに大きな影響を及ぼすだろう。デジタルテクノロジが社会のあらゆる側面に浸透するにつれ、各国は自国のテクノロジに中核的価値観や民意を反映させ支えようとする。各国政府は次第に、自国のデジタルインフラストラクチャを保護する必要があると結論付けるようになっている。
サイバースペースガバナンスの主導権を巡る各国政府の思惑は、企業がグローバルで事業を展開するビジネス能力に重大な影響を及ぼす。CIOは、サイバースペース環境に関する最新情報のブリーフィングを毎年実施することで、サイバースペースの主導権を巡る国家間競争および企業の業務運営への影響について、経営幹部チームの理解を深められる。