さまざまな目的をつなぐバウンダリー・オブジェクト――主語は“MeからWe”へ
――「目的」が牽引するイノベーションにおいて重要だと指摘されているバウンダリー・オブジェクトについてお話しいただけますか。
紺野:
個や事業体には、専門領域などで自分と他者とを区切る「境界線(バウンダリー)」があります。大目的の追求に基づく目的群を調整し、顧客や社会とつなげていくためには、その境界を越えて行動したり、新たな関係性を作ったりする「場」が必要です。そのような行動、相互作用を創発する媒介を「バウンダリー・オブジェクト」と言います。具体的には、フューチャーセンターやイノベーションセンター、最近では都市の現場でイノベーションを起こすリビングラボなどがそうした場として関心を集めていますね。通常のオフィスからはイノベーションは起きにくい。
また、オープン・イノベーションについても、これまでは主に企業と企業、企業と大学の1対1でのIP(Intellectual Property:知的資産)のやりとりとして行われていました。あるいは、P&Gがクラウドソーシングで1対多数で研究開発を効率化した例などがありますが、あくまでもベースは「我が社(私、Me)」でした。
しかし、これだけ複雑化した世界では、企業という閉じられた組織の中だけで経営を続けていくのはもはや不可能でしょう。そういう社会では、経営の主語は、「私たち(we)」になります。
企業が都市に出て行き、バウンダリー・オブジェクトを軸に、いろいろなコミュニティや他の企業、大学、研究所とネットワークし、社会との接点の部分で有機的にイノベーションを起こしていくのがこれからの新しいルールだと思います。
事例としては、関西発ヘルスケア・エコシステムの試みがあります。日本政策投資銀行が主催し、シオノギ製薬、ダイキン、日東電工、サントリー、大阪ガス、阪急阪神電鉄らを巻き込んで、新しい事業モデルを創出しようとしています。ここには、たとえば「関西の文化を背景にしたヘルスケアのエコシステムを作る」というコンセプトをベースに各社が研究してプロトタイプを作り、それを阪急阪神の沿線で社会実験するといった場の関係性があります。モノではなく、関西ならではのライフスタイルというコトづくりをしているとも言えるでしょう。そうすると、エネルギー、メディカル、その他のサービスが未来を作るためのコンポーネントとして横串でつながってくるわけです。