21世紀の人材に求められる「知性」とは?
――まず、今までのビジネスと21世紀型のビジネス、何が大きく変容してきていると思われますか?
田坂:
21世紀になり、過去の7年の変化が1年で起こる「ドッグ・イヤー」(犬の年)や、18年の変化が1年で起こる「マウス・イヤー」(鼠の年)という言葉に象徴されるように、ビジネスをめぐる環境変化が極めて激しくなっています。
また、企業や市場や社会というシステムが「複雑系」としての性質を強めているため、システムの片隅の小さなゆらぎが、システム全体に巨大な変動をもたらす「バタフライ効果」が頻繁に起こるようになっています。
その結果、ビジネスの世界では、過去の成功例からケーススタディ分析を通じて成功要因を学んでも、ほとんど役に立たない時代になっています。むしろ、現在は、過去の成功体験が、現在の失敗に繋がる「成功のジレンマ」と呼ばれる状況が増えています。
――その変化から、人材にどのような特性が必要だと思われますか?
田坂:
こうした変化の結果、これからの時代には、経営者やマネジャーは、前例が参考にならない「答えの無い問題」に直面することになります。そして、この「答えの無い問題」は、経営者やマネジャーに、高い「知能」ではなく、深い「知性」を求めるようになります。なぜなら、「知能」とは、「答えの有る問い」に対して、早く正しい答えを見出す能力のことであり、「知性」とは、「答えの無い問い」を、粘り強く問い続ける能力のことだからです。
また、これからの時代には、多くの「知識」を持った人材よりも、豊かな「智恵」を持った人材が求められるようになります。
ここで、「知識」とは、「言葉で表せるもの」であり、「書物」や「ウェブ」から容易に学べるものです。これに対して、「智恵」とは、「言葉で表せないもの」であり、「経験」や「人間」からしか学べないものです。
そして、情報革命が進んだ結果、世界中の「知識」は、携帯端末で瞬時に手に入るようになったため、「知識」を持っていることそのものは、大きな価値を認められず、これからは、「言葉で表せない智恵」を身につけた人材こそが重視されるようになっていきます。
――すなわち、これからの時代には、「知能」と「知性」を明確に区別して、「知性」を身につけること、「知識」と「智恵」を明確に区別して、「智恵」を身につけることが大切になっていくのですね?
田坂:
その通りです。その意味で、現在の我が国の「知識・知能偏重」の教育の下で「高学歴」を手にした人は、これからの時代に活躍が約束されているわけではありません。なぜなら、「高学歴」とは、「知能」の高さや「知識」の多さを意味しても、必ずしも、「知性」の深さや「智恵」の豊かさを意味しているわけではないからです。
そして、これからの時代に活躍する人材を考えるとき、もう一つ区別するべきは、「専門性」と「知性」です。
世の中では、しばしば、「高度な専門性」を持った人材を「高度な知性」を持った人材だと考える傾向がありますが、ビジネスの世界において求められる「真の知性」とは、目の前の現実を変革することのできる「変革の知性」であり、ただ「専門性」を身につけただけでは、変革やイノベーションは起こせません。
すなわち、21世紀において活躍するのは、単なる「専門性」を身につけたスペシャリストではなく、様々なスペシャリストを集め、多様な「専門性」を統合して、目の前の問題を解決していく人材、すなわち、「スーパージェネラリスト」と呼ばれる人材なのです。
――その「スーパージェネラリスト」とは、どのような人材でしょうか?
田坂:
そもそも、企業や市場や社会が直面する様々な問題を解決していくためには、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という「7つのレベルの知性」を垂直統合することが必要です。
特に、「前例の無い問題」や「答えの無い問題」に直面するこれからの時代には、この「7つのレベルの知性」を、バランス良く身につけ、それぞれのレベルでの思考を適切に切り替えながら、並行して進め、それらを瞬時に統合できる人材、すなわち、「スーパージェネラリスト」と呼ぶべき人材が求められます。