技術的失業のダメージを緩和するリスキリング
自身も40歳からリスキリングし、未経験だったデジタルやテクノロジー分野の仕事を開拓したという後藤氏は、早くから欧米におけるリスキリングの潮流に注目し、日本でも必要になることを確信していた。そこで、2021年に一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。政府自治体向けの政策提言と企業向けのリスキリングの導入支援を行っている。また、昨年『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』を出版し、組織に所属する個人に向けてもリスキリングの重要性とその方法を説いている。
後藤氏は、海外でリスキリングが注目されるようになった背景として「技術的失業」の問題を挙げる。
2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が「今後10〜20年の間にアメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化され消失するリスクが高い」と発表した。そこで名指しされた仕事が完全になくなるという状態にはまだ至っていないが、自動化技術が進展し、仕事の内容に変化が起きていることは確かである。
既存の仕事が変化・消失する一方で、デジタル分野では多くの雇用が生まれている。そのような仕事への労働力の移動を促し、技術的失業のダメージを小さくする方策として注目されたのが、リスキリングだった。
後藤氏は、仕事の自動化は日本でも確実に進んでいると指摘する。例えばファミリーマートは昨年、店舗のドリンクを補充するAIロボットを順次導入していくことを発表[1]した。仮にこの仕事にかかる人手が1店舗あたり1名だとすると、ファミリーマートで2万5,000人、他社のコンビニエンスストアでも同じことが起きれば5万7,000人分の仕事に影響が出る。
また、NTTドコモは、全国のドコモショップ2,300店舗のうち700店舗を閉鎖するという報道[2]がされている。これに伴う人員整理はせず、メタバース上の店舗でアバターによるオンライン接客や、法人顧客へのサポート業務へと社内で配置転換をするとしている。このときに必要になるのが、リスキリングである。
[1]株式会社ファミリーマート「飲料補充AIロボットを300店舗へ導入~店舗の更なる省人化・省力化を推進~」(ニュースリリース、2022年08月10日)
[2]日本経済新聞「ドコモ販売店700店閉鎖へ 全体の3割、ネット販売浸透」(2022年5月19日)