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シン・鬼十則

日本型イノベーションが求められる今こそ、電通「鬼十則」を使いこなすべき

第1回

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高度経済成長と電通躍進の原動力「鬼十則」とは

 皆さんは鬼十則をご存じでしょうか。これは、電通がかつて世界1位の広告会社にまで成長した際、その原動力となった行動規範です。1980年前後の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも称される経済成長とも相まって、海外にも鬼十則のファンが大勢いたと聞き及びます。しかし、2016年の労働災害事件をきっかけとし電通は鬼十則を廃止しました。

 今では時代遅れとも言われる鬼十則ですが、あらゆる組織で変革やイノベーションが求められるようになった現代こそ、鬼十則は活きてくると感じています。過激な言葉が使われてはいますが、この行動規範は、使い方さえ間違えなければビジネスパーソンに翼を授けてくれるツールです。本記事では、「シン・鬼十則」として鬼十則の用法や用途を再発見していきます。まずは鬼十則の原文と、その歴史を紹介します。

  1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
  2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
  3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
  4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
  5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
  6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
  7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
  8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
  9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
  10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

 この鬼十則は、第4代社長吉田秀雄が1951年8月に自らが実践する仕事に対する心構えをとりまとめ、社員に示したものです[1]。この1951年というのは、戦後混乱期から戦後復興期へと移り変わる節目の年です。そして1953年に始まる日本初の民間テレビ放送前夜とも言える時期です。映像と音声を遠く離れた場所へ届けられる技術は、現代人の私たちにとっては生まれた頃から存在する当たり前の枯れた技術です。しかし当時の人々からすれば夢の最新テクノロジーでした。

 今を生きる我々現役世代が直接経験している社会変革といえば、インターネットやスマートフォンの出現・発展でしょう。それらと同様の社会変革を、1950年代から「テレビ放送」というイノベーションで牽引した人間が吉田です。

 吉田は、テレビ産業創造以外にも広告業界のルール整備や地位向上、日本における“マーケティング”の概念の普及啓発など、様々なゲームチェンジやルールメイキングの仕掛け人でした。鬼十則とは、約70年前のイノベーターが、「われ、広告の鬼とならん」と自らを律し鼓舞するために生み出した言葉です。

 では、鬼十則はどのような機能を果たしたのでしょうか。私は、鬼十則は「アクセル」だと理解しています。電通は当時既に創業51年、社員数1,000人以上を抱える大企業でした。その図体を牽引し、社内外を巻き込んで未だ見ぬ新たな世界まで連れていくための、最強のアクセルです。

 吉田が鬼十則を説き、全力でコミットした民間テレビ放送開始から今年で70年になります。分別を持った思慮深い大人な私たちは、これを再び十二分に使いこなせるはずです。そして、日本から世界に新しいパラダイムシフトを巻き起こすこともできるはずです。


[1]公益財団法⼈ 吉田秀雄記念事業財団「吉田秀雄と鬼十則

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この記事の著者

蓮村 俊彰(ハスムラ トシアキ)

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