分析的思考の限界
つまるところ、デザイン思考とは、インテグレ―ティブ・シンキング(統合思考)を行う能力なのだ[1]。
「デザイン思考×ビッグデータ」もいよいよ最終回になる。これまでの連載では、その進め方・プロセスやスキル、組織づくりやモチベーションについてまとめてきた。あらためて、要は何かといえば、いかに「統合思考」を実践していくかということである。これは、データサイエンス活用においても必要不可欠なものになる。そこで今回は、この「統合思考」に焦点をあてて、探究していくこととしたい。
まず、統合的な思考として最も有名なのは「システム思考」(注1)であろう。このシステム思考を世界的に広めたのはピーター・センゲであるが(注2)、その著書『出現する未来』の監訳者解説にある「センゲは、やがて工学系の分析的なシステム思考では物事の本質を捉えるのに限界があることを認識したのではないだろうか」という指摘が非常に興味深い。この解説は、知識創造理論で世界的に有名な野中郁次郎氏によるものだが、この「分析的思考の限界」というものは、「統合思考」を重視するデザイン思考を理解する上で直視すべき問題である。
では、この分析的思考の限界を超える統合思考、つまり、ロジカル思考ではたどり着かないクリエイティブな発想(直観・ひらめき)とは、どのように生まれるものであろうか。
あらかじめ断っておくが、統合思考は、こうすれば絶対上手くいくという方法や簡易マニュアルがあるわけではない。もし、そのようなものがあるとすれば、それはクリエイティブといえるものではないだろう。
しかし、そうはいうものの、先人たちの知恵はある。そこで本稿では、デザインアプローチに馴染み深い統合思考法「KJ法」をもとに紐解いていくことにする(注3)。
なお、KJ法のことを、分類する方法だと思っている人は少なくないが、それは明らかに間違いである。KJ法は9割以上誤って運用されているとの指摘も聞く。正しくKJ法を行うためにも、『発想法―創造性開発のために』(川喜田二郎 著)に明示されている手順を再度確認することをおすすめする。間違いのない正則なKJ法を行えば、それが分類法ではなく「発想法」だということが理解できるであろう。