パーソルイノベーションからスピンアウトした理由
畠山和也氏(以下、畠山):2019年末にこの連載でお話を伺わせていただいてから約3年半、4月にパーソルイノベーションよりMBOを実施し、株式会社eiiconとして新たにスタートを切られました[1]。まずはMBOにいたった経緯を教えていただけますでしょうか。
中村亜由子氏(以下、中村):前回お話した通りeiiconは立ち上げから年々伸長しており、その後も企業だけでなく自治体との連携も増えるなど、順調に成長を続けていました。致し方ない部分もあるのですが、一方で大企業であるが故の細分化された決裁フローや承認システムを通過する必要があり、事業部単体での一元の管理が難しいことから、取引の規模が大きくなるにつれ、ミスが発生するリスクや、タイムラグが生じてしまうリスクなどが顕在化してきました。そこで、私たちが一元管理できるよう、2020年からパーソルイノベーションに対しては、子会社化に向けた交渉を開始しました。最初からMBOしようと考えていたわけではないんです。
富田直氏(以下、富田):前回ご取材いただいた際、企業内起業であってもスタートアップであることが大切だとお話しましたが、本当の意味でスタートアップとして指数関数的に成長するためには、すべての決裁権を持ち枠組みに囚われずに踏める環境が必要であるというのが、当時の考えのベースにあります。
畠山:子会社化の交渉からMBOに話が移っていったのはどのような理由からでしょうか。
中村:オープンイノベーション推進を加速させるためにも、プラットフォームに大きく投資をしたいと考えていました。しかし、大前提としてパーソルは「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げており、人材事業を主力としているパーソルグループと、オープンイノベーション推進を掲げるeiiconのビジョンの紐づけが難しくなっていました。
富田:当然のことではあるのですが、パーソルグループの人材ビジネスとeiiconのプラットフォームビジネスでは、事業のコンセプトも事業構造も違います。単価や利益率も異なるので、説明が難しいという側面もあります。
畠山:それは企業内起業の“あるある”ですね。特に飛び地の新規事業は、既存事業の価値観で判断されて苦しみがちです。
中村:パーソルイノベーションは我々のビジョンや思想を理解してくれており、「もし今のタイミングからシナジーがあってしっかり投資してくれるところがあるのであれば、そこと一緒に進めるという道もある」と言ってくれていました。
加えて、2022年に政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」の存在が大きかったと思います。この計画でもオープンイノベーションの推進が大きな柱として挙げられており、また、大企業からのスピンアウトの重要性も議論されていることから、パーソルイノベーションとしても後押ししやすかったのではないでしょうか。