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組織によるイノベーションの時代

第1回

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「天才的イノベーション」と「組織的イノベーション」

天才的イノベーション

 メディアの取り上げ方のみを考えれば、アップルのイノベーションは、ジョブズを求心力とした天才的イノベーションに分類できる。天才は、優れた洞察と想像によって生まれる“ひらめき”をもとに、時に私たちの生活を根本から変える。影響力は極めて大きいが、見過ごせない欠点もある。どうやってひらめいたのか、そのプロセスを周囲に明示できないのだ。誰もが理解できるような形で、体系的にイノベーションの仕組みを組織に構築することができない。イノベーションを起こせるかどうかが、常に一人の天才に依存してしまう。天才がいなくなれば、やがてすぐに組織は機能しなくなる。

 イノベーションの体系化に関するジョブズの発言は興味深い。2004年にビジネスウィーク誌の記者が、「どうやってイノベーションを体系化しているのか」とジョブズに尋ねた。彼は、「そんなことをしちゃいけない」と答えた。体系化をするという発想自体がダメなようだ。アップルにはイノベーションのための体系がどこにもない。いや、もしかしたら本当は明確なプロセスがあって、単に秘密にしているだけかもしれない(アップルは秘密が大好きだ)。

 しかし、アップルの元エバンジェリストであるガイ・カワサキもこう言っている。「ジョブズはマーケット・リサーチなんかしない。彼は右脳で左脳に語りかけるんだ」。きっと秘密なのではなく、本当に体系がないのだろう。もちろん、ジョブズがいなくなってもアップルが素晴らしい組織であることに変わりはない(と信じたい。この原稿はMacBook Airで書いている)。いずれにせよ、天才的イノベ―ションには明示化されたプロセスがないため、参考とするのは難しい。

「天才的イノベーション」と「組織的イノベーション」写真3.「天才的イノベーション」と「組織的イノベーション」

組織的イノベーション

 一方の組織的イノベ―ションは体系的に行われる。プロセスを重視した体系的な取り組みが必要な理由は、イノベーションの本質が不確実性にあるからだ。イノベーションに取り組むことは、失敗と成功が渦巻く闇の中へ身を投じることに等しい。

 イノベーションの失敗率をまとめた結果によれば、その数値は40~90%だ。業界によっても平均値は異なるだろうが、楽観的に見ても3回に2回は失敗すると考えた方がいい。宝くじで一攫千金を手にするよりは何百万倍も可能性があるとはいえ、それでも尻込みするには十分な失敗の確立だ。

 しかし、成功の可能性が低いからといって何もしないわけにはいかない。「御社の主力商品は?」と問われて、「まだない。2年前に開発した製品を、どうにか主力商品にするため営業活動をしている」と応える会社の先は暗い。そのうち競合が新しい市場をつくり、会社もろとも強制退場の目に遭う。「イノベーションを起こしたいが、失敗は避けたい」そんな状況を避けるためにはどうすればいいのだろうか?

 大切なのは、失敗する確率を低くして成功の確率を高めることだ。そのためには、失敗経験を一つの学習機会と捉える必要がある。失敗から得られた情報を活用することによって、不確実性を低減させることができるからだ。失敗が有益であるという発想は、個人の場合をイメージするとわかりやすい。

 たとえば、初めて自転車に乗って転んだ時のスリ傷でもいい。もしくは、自分のミスで人に迷惑をかけ、申し訳なさを感じた経験でもいい。再起不能になるような致命傷は避けるべきだが、ちょっとした失敗からの学びが、次の成果を得るきっかけになる。

 組織の場合も同じだ。ただ、組織の場合は多くの人が関わるため、それなりの仕組みを取り入れなければならない。仕組みがあれば、誰かが転んだ経験によって得た学びを、他の人はスリ傷なしで活用することができる。プロセスを大事にすることで、不確実性を減らしていく学習のリレーを組織全体で実行できるのだ。

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組織的なイノベーション、道具としてのデザイン思考

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この記事の著者

柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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