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デジタル庁のデータプロジェクトの背景にある「データ原則」と「デザインプロセス」を紐解く

Biz/Zine Day 2023 Autumnレポート:講演者 デジタル庁 樫田光、志水新氏

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大きな組織だからこそ、アクションと効果に距離がある

 行政での仕事の難しさのひとつは、自分たちが取ることのできるアクションと、最終的に期待されている効果に常に一定の距離があることだと樫田氏は述べる。これはおそらく、行政以外にも新規事業やDXなど、中長期的かつ大規模なプロジェクトでは必ずぶつかる問題だろう。

 ある政策を行うと、どういった直接的な結果や成果が期待されて、それが最終的にはどんな社会的な影響があるか、についての仮説を政策分野では「ロジックモデル」と呼ぶ。「どのような風が吹けばどこの桶屋が儲かるか」を想定しながら、目先の活動を行うことが求められるのだ。

ロジックモデル
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 例えば、マイナンバーカードが社会に普及すれば、それに伴ってオンライン申請の件数が増え、市民が手続きに使う時間が減り、紙の資料が減るなどして行政のコストが削減される。その結果として時間や予算に余裕が生まれ、社会全体の幸福度が得られる。こうした「ロジックモデル」がどの政策の背景にもある。

 しかし、目下行われているのは、あくまでマイナンバーカード普及のキャンペーンだ。このように、実際に行っていることと最終的に期待されていることに、時間やコミュニケーションの面で距離があるのだ。

政策運営に伴う難しさをデータによって解決するEBPM

 民間企業でいう「データ・ドリブン・ディシジョン・メイキング」に代わる言葉として、「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング」(EBPM)という言葉がある。日本におけるデジタル化推進の指針を示す閣議決定文書「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中でも内閣はEBPMを行っていく、つまりデータドリブンに政策運営をしていくと宣言している。

 しかし、EBPMが何を包含するかについて、実は政府内で明確な統一見解はないようにも思える。例えば経済産業省では樫田氏の区分でいうレベル4のみをEBPMと定義しているように見える一方で、厚生労働省は「事実に基づいて政策を決定する」という幅広い定義をしており、レベル1からレベル4までをカバーしているように見える。この幅を踏まえた上で、自分なりに定義をして仕事を進めるというのが、樫田氏の現在のスタンスだという。

 次に樫田氏は、省庁における仕事の難しさは、先程のロジックモデルになぞらえて考えると、大きく3つあると話す。そして、これらはデータを活用することで解決しうる課題だという。

 1つ目は、一つひとつの活動に長い時間やエネルギーが必要だという点だ。先の例でいえば、マイナンバーカードの普及だけで数年かかる。これはデジタル行政サービスを提供するための事前整備のようなもので、カードの普及だけでは社会の幸福に結びついていない。これについては、進捗状況のモニタリング、データによる開示が解決方法として有効だと樫田氏は語る。マイナンバーカードであれば、普及率やオンライン手続きを行える場所の数を公開するなどだ。

EBPM
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 2つ目は、「ロジックモデル」が妥当かどうか分からないという点だ。果たして風が吹いたら本当に桶屋が儲かるのか、本当に良い影響が生まれているのかが分かりづらい。こちらは、データで因果関係を検証することが有効だ。

 3つ目として、政府が最終的に目指す社会の幸福というものは、定量化が難しい。営利企業であれば売上が最終成果であるため、円というコストと共通する尺度で示すことができ、ゆえに効果を伝えることも容易だ。しかし、効果を数値として計測する際にも、調査設計の段階からデータを活用すれば、コミュニケーションの改善をはかることができる。

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データについての3つの原則を活かした「政策データダッシュボード」

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雨宮 進(アメミヤ ススム)

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