データとデザインの関係性を次のステップへと進める
最後に、志水氏は今後の3つの展望について語った。
1つ目は、行政のデータを見せる・見る・追うことで、よりよい政策立案に寄与するという展望だ。これまではデータがどこにあるかが分かりづらく、ありかを知る人のみしかアクセスできなかった。それを誰でもアクセスできる場所に置き、かつ見やすくすることで、政策立案の判断材料として活用しやすくすることを狙う。ダッシュボードを見ながら、省庁と自治体間でコミュニケーションをはかっている事例もあり、少しずつ変わり始めていると実感していると氏は語る。
2つ目に、先のダッシュボードやデザインシステムを公開し、各自治体、準公共、民間がデータを使ったアクションを主導するための環境を整えたいという。これまでは民間企業でも経営指標や進捗の公開を積極的にしてこなかったため、ダッシュボードのガイドラインやデザインシステムには良いサンプル事例が少ないのだという。
最後に、データとデザインの関係性を次のステップに高めたいと氏は語る。政策データダッシュボードのプロジェクトが始まって一年ほど経過した現在、データを誰でも分かるように伝え、広めるという第1ステップを継続しつつ、次のステップとして、観察やインタビューを通して課題を発掘していく「デザインリサーチ」と呼ばれるプロセスを始めたいのだという。
データは、何が起こっているのかを明確に教えてくれる一方、その先の「なぜ」はデザイン側の観察やファクトが深く教えてくれる。先ほどの利用率の話では、誰が利用していないのかは現状のデータから分かるが、なぜその人が利用していないのかについては把握が困難だ。その両輪で課題を深掘りしていくことが次の施策アプローチに繋がっていくのだという。
最終的には施策の効果を測定し、PDCAのサイクルをスピーディーに回し、確度の高い施策の立案を実現するステップ3を見据えていると述べて、志水氏は講演を締めくくった。
データとデザインの融合
セッションの最後に両氏から、データとデザインの融合に関して、それぞれの立場でポイントが語られた。
まず志水氏は、民間、NPO、大学、そして行政で働いてきた経験から、お互い専門性や視点をリスペクトしあいつつ、遠慮はしない関係性をチーム内で築くことの重要性を語った。
「デザイナーの価値はまさに、関係者の頭の中でモヤッとイメージされているものを議論できる状態に落とすことです。しかし、さらに大事なのは、その叩き台を前にしたときに、あえて互いの専門分野に踏み込む発言をすることです。もちろん、信頼とリスペクトを持ったうえで、です。私もデータの見せ方について発言するし、逆にデザインについてのフィードバックをもらう。そうすればこそ、アウトプットは磨かれていきます。これはデータとデザインに限られたことではありません。どんな異分野の人たちがコラボレートする場合でも同様でしょう」(志水氏)
続いて、樫田氏が講演全体を締めくくるように、2つのポイントを解説した。
1つ目は、具体的に見える“手触り感のあるもの”をもとに話し合うことの重要性だ。
「言葉だけで議論をしていると、思考がズレていくことがあります。売上という言葉でさえ、人によって意味が少しずつ異なっているでしょう。ならば、データで実際の数字を出し、目に見えて全員で共有できるモノを中心に会話を進めるのが重要です」(樫田氏)
まずは目に見えるものを作り、それを中心に話すのが重要であり、データやデザインはこのプロセスに1つの答えを出せるということだ。政府内でも、具体の形としてデータ活用のあり方を示すダッシュボードの公開によって、データについての議論を一歩前に進められている実感があるという。
2つ目は、省庁で働いていて実感することとして、物事には変えられる部分とそうでない部分があるということ。政府を動かすと考えるとそれは重厚長大な取り組みであり、そう簡単には動かせないことは想像に難くない。しかし、全くチャンスがないかといえば、そうではなく、樫田氏が入庁してからもデジタル庁は変化を続けているという。
「重要なのは、変えられる部分かどうかを見極めることです。そして、変えるべき部分に焦点を絞って、そこは時間をかけてでも変える。変えられない理由を理解し、変えるための理由を作れば、必要な変化は生み出せます。これは行政に限らず、民間の大企業でも共通することではないでしょうか」(樫田氏)
樫田氏と志水氏の所属するデジタル庁では、幾つかの職種で人材を募集しているようだ。デジタル庁の「Data の求人一覧 - デジタル庁」に詳細が示されているとのことなので、関心のある方をチェックしてみてはいかがだろうか。