「母の乳がん発症」を原体験としたAI診断支援の開発
大角知也氏(以下、大角):山並さんは現職に至るまでにかなり豊富なご経歴をお持ちだと思いますが、まずはここまでのキャリアについて簡単に伺ってもよろしいですか。
山並憲司氏(以下、山並):私は元々、学生時代に医者になろうと考えていた時期があり、医療に関心を持っていました。特に興味があったのは脳で、大学時代はそれが高じて人工知能、ニューラルネットワークなどを研究する研究室に所属し、大学院では人の脳の短期記憶についてAIで解析する研究を行いました。その後、研究職に就くよりも、直接社会に貢献していきたと考えるようになります。
そこで卒業後は、通産省(現 経済産業省)に入り、個人情報保護の仕組み作りや、エレクトリック産業の促進などに従事しました。その後、民間に移ってコンサルティングファームで日本の企業支援を担当した後、楽天に移ります。そこで日本の商品が世界で売れることに強い意義を感じ、海外マーケティングの新規事業を担当することになりました。縁あって再びヘルスケアの世界に戻り、2019年にSmart Opinionを創業しました。
大角:医療の研究から始まって、官も民もご経験されてきた中、どのようなきっかけでSmart Opinionを創業することになったのでしょうか。
山並:母親の乳がん発症をきっかけに医療時代の古い友人と連絡をとるようになったことが発端です。様々な相談をするようになったのですが、たまたま内視鏡のAIについて話す機会があり、これを乳がんのエコー検査に応用するというアイデアが出ました。そこで、AIや量子コンピュータを強みとするフィックスターズに協力してもらい、事業開発を進めることになったんです。
大角:なるほど。それがSmart Opinionのメイン事業である乳がん向け乳房超音波画像AI診断支援ソフトウェアですね。
山並:そうです。一般的にがんは年齢と共に徐々に罹患率が上がり続けますが、乳がんは40代で一気に罹患率が上がり、65歳くらいをピークに、その後は少しずつ下がっていくという特徴があります。つまり、若い人にリスクがあるという点で、社会的な課題は他のがんよりも大きいといえます。
現在、検診の中心はマンモグラフィーと超音波検査(エコー検査)ですが、マンモグラフィーは、日本の40代女性の過半数が該当するデンスブレスト(高濃度乳腺)において、多くの部分が白く映るため、乳がんを見分けにくいという問題がありました。一方エコー検査は、その問題こそないものの、医師の技術によって精度にばらつきがあるという難点があります。そこで、AIを活用して高精度に検診できる環境を提供しようというのが、我々のミッションです。
大角:それは素晴らしいですね。マンモグラフィーは痛みをともなうというデメリットもよく耳にしますが、エコー検査であればそれもありませんし、さらにAIによって人的エラーを回避できるとなれば、より多くの患者のメリットにつながります。
山並:おっしゃる通りです。日本の乳がんの検診率は45%前後ですが、とにかく早期発見が大切なので、この数字を上げていかなければなりません。