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ヘルスケアイノベーター探訪

小さな改良・改善が生み出すヘルスケアイノベーション──長田敏彦氏に聞く、テルモのイノベーション戦略

第8回 ゲスト:テルモ 長田敏彦氏

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 医療分野におけるデータ利活用や、AIやロボットによる医療の効率化、企業連携や異業種連携による新規事業創出を通じて課題解決に取り組むイノベーターたちにインタビューする本連載。今回は、世界160以上の国と地域で事業を展開し、カテーテルや人工心肺システムで高いシェアを誇る医療機器大手、テルモ株式会社の取締役専務経営役員(イノベーション担当) 長田敏彦氏にお話を伺いました。聞き手は一般社団法人ヘルスケア イノベーション協会 代表理事の大角知也氏です。

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研究開発と経営、双方のキャリアで得た知見を活かしイノベーション活性化へ

大角知也氏(以下、大角):今回は、100年以上の歴史を持ち、世界各地で事業を展開するテルモの戦略を通じて、医療機器業界におけるイノベーションの実態に迫れるのではないかと期待しています。はじめに、長田さんのこれまでのキャリアについて、教えていただけますでしょうか。

長田敏彦氏(以下、長田):大学の工学部で学んだ後、医療機器の開発に携わりたいという思いでテルモに入社し、7、8年間は主力製品であるカテーテルの研究開発に従事していました。ところが突然、異動命令が下り、右も左もわからないまま経営企画の部署に飛び込むことになったんです。研究所しか知らなかった私は、「本社には、研究所とは異なる視点や考え方があるんだ」と実感し、会社経営に興味を持つようになりました。

 その後、外部からの技術獲得や自社の事業運営など、様々な部門を経験し、2024年4月からはイノベーション担当役員として、社内のイノベーション関連部門を統括する役割を担っています。振り返れば、1社に勤めながら10回の異動を経験したことになりますが、その時その時に得た新たな知見が、現在のイノベーション活性化の取り組みに活きているように思います。

大角:長田さん自身が、キャリアでイノベーションを起こしているような印象を受けますね。一方テルモとしては、どのようなものをイノベーションとして想定していますか。

長田:イノベーションというと、一般的には「世の中にないものを生み出す」ことをイメージしがちですが、当社はそれに加えて「今あるものを改良・改善する」イノベーションも重視しています。

大角:私がかつていた医薬品業界で既存製品のアップデートとなると、錠剤をOD錠にすることくらいしか思いつきませんが、医療機器は改良・改善の切り口がたくさんあるということですか。

長田:そうですね。医薬品業界が実験室の中で数値的なシミュレーションをもとに開発しているとすると、医療機器業界では、実際の医療現場の課題をもとに解決策を考え、先端技術を駆使しながらも人の手で開発している部分が多いんです。手作りだからこそ、工夫の余地が大きいのかもしれません。重さや厚さ、太さ、素材など、一見些細な改良・改善で機能性を高めたり、コストを抑えたりすることができます。時にはそういった改良・改善が医療現場を根本から変えられることもあり、それが医療機器開発の大きな醍醐味となっています。

大角:医薬品業界では、研究開発の成果が患者に届くまでに長い年月を要し、その道のりの長さにもどかしさを感じる声が少なくありません。一方で、医療機器の研究開発は、医療現場のニーズを直接出発点とし、臨床の課題に対して比較的迅速にソリューションを提供できるという特徴がありそうですね。

長田:医療現場の抱える課題を見つけることに医療機器開発の大きな比重を置いている分、エンドユーザーである医療従事者や患者さんとの距離は近いです。それが、両者の研究開発に対する姿勢の違いを生み出しているのかもしれません。

大角:製薬業界の研究開発は、長い年月をかけて患者さんに届くという壮大なスケールがあり、その挑戦には大きな魅力を感じます。一方で、医療機器の開発は、医療現場の課題に寄り添いながら、より直接的かつスピーディーに医療を支える点が印象的ですね。どちらも異なるアプローチで医療の未来を支えており、それぞれに魅力があると改めて感じました。

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この記事の著者

山田 奈緒美(ヤマダ ナオミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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