パーパス経営、本当に機能していますか?
澤円氏(以下、敬称略):ここ数年でバズワードとなった「パーパス経営」ですが、IT業界が長い私はこれまで、数多のバズワードが登場してはセールストークでお決まりのように消費され、中身のない言葉だけが独り歩きしてしまう現象を見てきました。パーパス経営も、一歩間違えれば同じ道をたどってしまう可能性があるのではないかと思っています。名和先生は、近頃の日本企業のパーパス経営にどのような印象を感じていますか?
名和高司氏(以下、敬称略):2021年に『パーパス経営: 30年先の視点から現在を捉える』(東洋経済新報社)を出してから2年ほど経ちますが、パーパスを作っておしまいになってしまっているケースが非常に多いと感じます。なんとなくイケてる風なことが書いてあって一見ワクワクするけど、実際は綺麗に飾ってあるだけの“額縁パーパス”になってしまっているんです。
そしてさらに勿体ないのが、1on1などでパーパスを一人ひとりに一生懸命落とし込んでいるものの、なかなか行動や実践が伴っていかないケースです。みんなパーパスをちゃんと覚えていて、口では完璧に言えるのですが、なかなか行動にはそれが表れない。
たしかに、パーパスという言葉だけなら十分に浸透してきているでしょう。ただ、そろそろ全体のフェーズがもう一歩進まなければいけない時だと思います。
澤:今日はパーパス経営の実践者として、日清食品でCHROを務める正木さんにお越しいただいています。正木さんはパーパス経営の意義をどう捉えていますか?
正木:我々のパーパス経営もまだまだ道半ばではありますが、個人的なイメージとしてはブドウの粒を房に集めていくような取り組みだと感じています。これまで一粒一粒を美味しい、甘い、酸っぱいなどと言いながら食べてきたのですが、思い返せば一房になってなかったなと。それをツルの巻き方や軸枝の入れ方を学びながら、少しずつ束ねているところです。
澤:良い喩えですね! ブドウというのは通常、一房全体を指して「ブドウ」と呼ばれるものですが、もっと解像度を上げてみるとそこには単体の果実ではなく、たくさんの小さな実があると。その一粒一粒のおかげでブドウの価値は成り立っているわけですが、房から外れてバラバラになってしまうと、一粒だけでは力不足になってしまうということですね。