2,325社の有価証券報告書を比較、人的資本開示を5段階で格付け
田中弦氏(以下、敬称略):私は、これまでも日本企業の統合報告書やサステナビリティレポート、有価証券報告書などを見て、人的資本開示の動向を追ってきました。最近は、国内の3月決算企業2,325社の有価証券報告書に目を通し、開示の充実度を1~5の5段階で格付けしました。そして終わってみると、約50%の企業に評価「1」をつけていました。最高評価の「5」は、全体の2.8%でした。
評価が1だった理由、それは「人的資本への投資が、どう企業価値の向上に結びつくのか。どう結びつけるのか」という、本来最も人的資本開示に求められているはずの観点が欠けており、単なる女性管理職比率や有休取得率などの開示のみに留まってしまっていたからです。
伊藤邦雄氏(以下、敬称略):思い切ったものを作りましたね(笑)。ただ、非常に貴重なデータだと思います。私が思うに、恐らくここで評価が1になってしまった企業群の中には、「早く開示の要求に対応しなければ」という切迫感の中で、予算確保や準備が満足にできなかった企業もあったのではないかと。来年になれば、もっと全体的な開示のレベルは上がりそうですよね。
一方で、そうした中でも充実した開示ができている企業もあるということは、れっきとした事実です。その差の要因は何か。おそらく、コーポレートの中で「部門横断的に人的資本開示プロジェクトに取り組めたかどうか」ではないでしょうか。
田中:なるほど。
伊藤:「人的資本経営や開示に携わるコーポレート部門」と言っても、経営企画かIRか、あるいは人事か、いくつか関連しそうな領域はありますよね。それらが部門間の壁を越えて連携すべきだと私は考えています。たとえば中期経営計画(以下、中計)を作るとき、一般的には経営企画の方々が事務局として中心になるかと思います。その際、最初から人事のメンバーも一緒に入って作成しているという企業はまだまだ少ないですよね。
私はこの現状を変えたいのです。今の例で言えば、人事とは全社の従業員のことを誰よりも見ている人たちなんだから、中計作りに最初から加わっていないというのは本来おかしいことなんです。人的資本開示の潮流は、この旧来型のやり方を改める良い機会になるのではないでしょうか。
田中:今回の評価が1だった企業の中にも、来年は大きく飛躍する企業が出るかもしれませんよね。
伊藤:ぜひ頑張っていただきたいですね。そして既にトップの格付けにいる企業は、来年さらに人的資本開示のレベルを上げてくるでしょう。