アジャイルな発想や進め方が「ルールデザイン」には必要だ
──インタビュー前半では、組織において起きがちなルールデザインの失敗やその対応策を伺いました。適用範囲が広いルールデザインですが、どの領域でもヒントとなる秘訣などがあればお聞ききしたいです。
最初のステップとして必要なのは、「ルールデザインはそもそも難しく、失敗するものである」という前提をもつことだと思います。
例えばロケットや自動車など、失敗したら命に関わるようなものを開発する場合、きちんと設計するのはもちろんですが、徹底的にテストをしますよね。そして失敗が起きたらすぐにレポートし、そこからまた改善のサイクルを回していきます。いきなり完璧なものはできないので、徐々に改善していくことで最後にちゃんと動くものを作れるようになるわけです。
ロケットや自動車に限らずいろいろなものがこのような手順で作られていますが、ルールに対して同じ発想をする人があまり多くありません。このようなマインドにまずは切り替えることが必要です。
ルールをデザインすることも、事業開発や研究開発でもやるべきことは同じです。ここまでお話ししたような失敗をしないように、ちゃんと検討した上でモニタリングするとかテストするとか、まずは小規模にやってみる。その上でそれが機能するのかを確認して、徐々に広げていく。失敗が起きたらちゃんと分析してフィードバックするということが基本的な考え方です。
──この連載では、組織やビジネス環境を静的ではなく動的なものとして捉え、常に動く対象にどのように対処していくのか。そんな切り口で、識者の方々に語っていただいています。共通するのは、まずは試行して、その結果をデータとして可視化し、具体的な改善方法を考えるという「アジャイルな方法論」でした。ルールデザインも同様だと感じています。
そうですね。まさにアジャイル開発の考え方をルールデザインに対しても適用すべきだと思います。最近では国も「アジャイル・ガバナンス」という言葉を使うようになっていますし、私はそのようなルールの作り方を「適応的ルールデザイン」と呼んでいます。
ポイントはルールを作るときに「フィードバックの仕組み」をあらかじめ設計しておくということです。いつレビューしてフィードバックするのか、どんな状態であればOKとするのかを大体決めておくのです。
事前にこのような設計をきちんとしておかないと、モニタリングされることもなく意味の無いルールが放置され、そのようなルールで働かされる職場環境では、いわゆる「ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)」が量産されることになるでしょう。
そもそもルールは失敗するものであり、失敗を受けてどう改善するのかが重要だという前提に立つこと。これを私は「適応的ルールデザイン」だと定義しています。