AGCの新市場開拓・多角化を支える「両利きの開発」
──AGCはガラス事業を起点に、電子、ケミカル、ライフサイエンスなど、幅広い領域で事業を展開しています。本日は、AGCにおける研究開発の特徴や強みについてお伺いします。
AGCの祖業は1907年に開始した建築用ガラス事業です。その後、第一次世界大戦で輸入が困難になったガラスの原料であるソーダ灰、窯のレンガの内製化を目的として化学事業、セラミクス事業が始まりました。それ以来、自動車用ガラス、ブラウン管用ガラスと、時代のニーズにガラス技術を適用しながら、事業の幅を広げてきました。また、有機材料や樹脂との複合化により、ガラス製品の価値向上にも取り組んできました。近年では生産技術力を基盤にバイオ事業にも進出しています。自社の組織能力や技術を起点に、幅広いプラットフォームと融合することで、新規事業を創り上げるのがAGCの強みといえます。
──AGCといえば「両利きの経営」が有名です。また、研究開発では「両利きの開発」が知られています。
両利きの開発は、既存顧客のニーズに伴走し、オープンイノベーションなども活用して既存の技術や商品を次世代向けに革新する「右利きの開発」(下図②)と、保有技術を再定義して新市場を開拓する「左利きの開発」(下図③)を並行して行う開発戦略です。
両利きの経営の提唱者であるオライリー教授が考案した「イノベーション・ストリーム」のフレームワークをもとにコンセプト化しました。
このコンセプトを打ち出したのは比較的最近ですが、AGCの歴史を振り返ると、まさに「右利きの開発」と「左利きの開発」の繰り返しです。ある意味では、AGCは長年にわたって、両利きの開発に取り組み続けてきたといえます。
そして、両利きの開発において、重要な役割の一つとなるのが私の所属する技術本部です。技術本部は企画部、先端基盤研究所、材料融合研究所、生産技術部、フロート技術推進部で構成されていますが、各部署の組織名からわかるとおり、素材・材料の開発、プロセス技術開発、生産技術開発と、商品化までのプロセスが包括されているのが特徴です。2021年にオープンしたYTC(横浜テクニカルセンター)にはこれら3つを担う部署が集結しています。技術本部内で商品化までのプロセスをシームレスにつなげることで、新たな技術開発や技術適応を加速し、両利きの開発を支えています。