なぜ大企業でのエフェクチュエーションの実践が難しいのか
──大長さんが直面していた「大企業の方たちに理解してもらうのが難しい」という問題について、吉田先生はどう感じますか。
吉田:すごくよく分かります。私のビジネススクールの学生さんもほとんどが大企業の方たちなので、エフェクチュエーションを学んで動き始めても、組織の壁に阻まれることがしょっちゅうです。
私個人としても、ちょうどこの4月から、エフェクチュエーションを促進するようなプロセスや組織のあり方について他の先生方と協同で研究するプロジェクトが始まります。ですので、今日このようなお話ができるのはとてもありがたいです。
大長:こちらこそ、嬉しいです。大企業であってもイノベーションに成功している企業はあります。ただし、それを経営としてコントロールしていたかといえば、そうではない場合がほとんどだと思います。そう、たまたまできる人がいて成果を出すというケースです。
しかし、今後はエフェクチュエーションができる組織のデザインや、コーゼーションからエフェクチュエーションへのモード転換を、リーダーが意識的に進めていくべきだと考えています。今は、2番手3番手に当たるリーダーがモードの使い分けの概念を持ち合わせておらず、苦しんでいるように見えますから。
吉田:確かに。新規事業開発に対する組織としてのケイパビリティやプロセスなどを明確にするというのは、とても大事なことだと思います。
大長:ところが、どうしたら新規事業をつくれる組織にできるかという議論はどうしても空中戦になりがちなんですよね。「社長が……」とか「スキルが……」とか「そもそもうちのドメインとしては……」とか、いろいろな視点があってなかなか話が噛み合わないんです。
僕らは、議論を空中戦にしないためには土台となるフレームワークが必要だと考えました。それで、新規事業が生まれる組織づくりに必要な「10の観点」をまとめたんです。
これをつくったことで、どうやったら自走できる組織にしていけるのか、それぞれの観点に照らし合わせながら話ができるようになりました。
そういう経験があったので、エフェクチュエーションの行動原則も、個人だけでなく組織に対して当てはめてみることができるのではないかと思っています。「エフェクチュエーションができる組織」をこの「10の観点」で読み解くとどうなるんだろう、という問いを立て、いろいろな企業に取材をしたりデータを取ったりしているところです。
吉田:それは興味深いですね。