最初のラウンドを振り返って(紺野登)
実はこうした場はありそうでなかった、というのが参加者の率直な事後の感想だった。今回の会議は、産官学間の知を集め、未来の方向性を構想するという、草の根的な場づくりの第一歩だった。まず大手企業にお声がけしたが、今後はスタートアップや中堅企業の経営者、研究機関の責任者などに場を広げ、国レベルのイノベーション・エコシステム(生態系)やあるべき政策などについて議論する場を設けたいと思っている。実際、世界のイノベーションの最前線にいるのは伝統的企業だ。日本企業にも多くのポテンシャルがある。
さて、会場では4つのラウンドテーブル(円卓)ごとにファシリテータ役を一人ずつお願いし、東京工業大学(現・東京科学大学)副学長の大嶋洋一氏には全体のモデレーターをお願いした。
今イノベーションを掲げない企業はないだろう。しかし実態としてなかなか思うように進んでいない、というのがリーダーの生の声だった。そのための共通認識として、現業とのコンフリクトなどは当然として経営者の役割が大きいという点だ。長期的視点に立った「明日をつくるための」「場を設け」「人を配する」経営者の賢明さがなければ、当座の事業がそこそこでも企業価値は縮小していき、存続リスクが生ずる。
イノベーションは現業の「脇」で行う新規事業活動ではなく、経営全般、将来的には中核的に関わるものだ。イノベーションは組織に染み込んで、組織文化や持続的なシステムとして捉えていかなければならない。たとえば「両利き経営」にしても、単に本業(深化)と新規(探索)を並べて行うことではない。これは一般には誤解されているかもしれない。野中教授も指摘した、綜合、構想力が鍵を握る。むしろ、未来のシステムの視点から、本業と新規を共に捉え直す、といった姿勢が必要なのではないだろうか。