大学の活用と博士号取得者の活躍が今後のイノベーション推進の鍵を握る
本会議の幹事を務めた一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)代表理事であり多摩大学大学院教授の紺野登氏は、冒頭の挨拶で「イノベーションに関わる産官学のトップが一堂に会して議論を行う機会は、これまで、あまり国内では見られなかった」とし、イノベーションの可能性を広げるため、産官学を超えて多角的な視点で議論する場として構想されたと話す。
続いて挨拶をした文部科学省の生田知子氏は、大学は特定の分野やセクターに縛られず、多様なステークホルダーをつなげる接着剤のような役割を果たせる特徴があるという。この「繋げる力」を活かせば、イノベーションの拠点となりうると強調した。「公共インフラ」である大学、つまり、全国に広がる、誰もが利用できる資源としての大学は、近年、イノベーションの拠点として注目を集めているという。
一方で、日本では「博士号取得者の専門性は高いが、社会で活躍する力はない」という見方が根強いが、国際的には企業や研究機関で重要な役割を担っていると同氏は話す。実際、博士号取得者は、専門的な知識だけでなく、問題解決力や「繋げる力」、やり抜く力といった、イノベーションに不可欠な能力を持っているという。今後もイノベーション促進のため、博士号取得者が活躍できる環境を整えていく考えだ。
次にマイクを握った経済産業省 イノベーション環境局審議官の今村亘氏は「日本発のイノベーションが減少している」と言われることがあるが、スタートアップや大学の研究者、地域で活躍する若い人材には高い能力があり、潜在的には大きな可能性があると話す。また、持続可能なイノベーションエコシステムの構築のためには、国だけではなく、産業界の協力が不可欠であるとし、産官学の垣根を越えた活発な議論が、国の発展にとって極めて重要であると意欲を見せた。
ビデオメッセージを寄せた経営学者の野中郁次郎氏(JIN理事)は「イノベーションは、未来に向けて新たな意味と価値を集合的に創造するプロセスである」とし、科学技術によってではなく、人間によってもたらされるものだと強調した。特に、異なる背景や視点を持つ人々が対話し、時には葛藤を通じて生み出される「集合知」こそが、真のイノベーションを引き起こすと説いた。
そのため、産業界、政府、学術界、そして一般社会が連携することが、未来を切り開く鍵となるとし、このラウンドテーブルがその協力を促進する場になる期待を語った。「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」を追求する発想で、いわば分析でなく綜合によって新たな知を創り出していこうと語りかけ、メッセージを締めくくった。
そして、会場となった宗教法人神田神社(神田明神)の清水祥彦宮司は2030年に創建1300年の節目を迎える同社においても「伝統と革新」のイノベーションが課題だと語り、同氏も参加する形でラウンドテーブルの幕が開けた。