紺野氏が指摘する日本のイノベーションエコシステムの課題
続くパネリストとして登壇した紺野登氏(JIN 代表理事・多摩大学大学院教授)は、大嶋氏の発表を受け、日本企業が直面する課題とエコシステムの重要性について言及した。今回の「IMSAP Global Studio」視察でも参考としたのが、日本とアメリカの中間的なアプローチを取るヨーロッパの事例だったという。そして、ヨーロッパでは、大学がエコシステムで鍵となる役割を果たしていると指摘する。
現在も多くの企業は日本国内の大学に投資し、研究室単位で連携しているが、これはあくまで技術・知識資産の移転にとどまり、エコシステムの共創には至っていない。また、大学がイノベーション教育に十分取り組めていない点も課題だと指摘。これは世界でも共通しているのだが、スタンフォード大学をはじめとする一部の大学はこの問題解決に動いている。日本でもさらなる進展が求められると述べた。
紺野氏は、大学がエコシステム形成の中核として機能し、IMSを基盤に産業界と連携して新たなイノベーションを創出する場を提供するべきだと提言した。イノベーション・マネジメントの共通言語やシステムが整備され、具体的な活用事例も見られる現在、ISO56001を活用しない選択肢はないと述べた。ただし、IMSは個々の「イノベーション活動の規格」ではなく「マネジメントの規格」であるため、各企業の独自の文脈に適応させることが重要で、単なるチェックリストにするだけ、そしてただ導入するだけでは効果は限定的であると述べる。
同氏は、企業の実情に即した形で統合的に活用するための具体策として、JINが提供するISO規格と知識創造に関する評価項目を統合したアセスメントを活用することを提案(後述)。これにより、企業のイノベーション準備度(レディネス)とシステムの成熟度(マチュリティ)をともに測定し、より具体的かつ実践的なイノベーション戦略を策定できると述べた。
異分野を連携し、事業機会を発見するための場としての大学
大嶋氏は、イノベーションがどのように社会課題を解決するかを示す具体例として、農業、食品、ヘルスケアの各分野の専門家が参加した「アグリフードヘルスイノベーションフォーラム」での議論を紹介。食料危機や食品ロスといった社会課題は、単一の業界では解決できないとの問題意識から行われたこのフォーラムでは、各国が世界的な食料危機への対応策を議論する中、日本が国内自給率の上昇といった国内視点の話題に集中しており、グローバルな課題への具体的な貢献が議論されていない点に危機感を覚えたと述べた。
こうした状況を改善するには、分野を超えた情報共有と包括的な議論が欠かせない。これまでこうした議論が進展してこなかった理由として同氏が挙げるのは、分野を超えた情報共有の不足、そして関係者間の信頼関係が構築されてこなかったことだ。これからは複数の業界が協力し合いながら、新しい価値を生み出す仕組みが必要だと述べた。