パーパスはそもそも浸透させるものなのか。「押し付けすぎ」も「押し付けなさすぎ」もダメな理由
──本記事では、JTのパーパス策定のその後の活動についてお聞きしますが、その重要性について、お二人はどのようにお考えですか。
藤井:パーパスに限らず、DX推進や新規事業コンテストなどの新規性の高い取り組みは、発表した直後が「最大瞬間風速」になりがちです。しかし、重要なのは「その後の活動」であることに疑いはありません。ただし、「その後の活動」に悩み、知見を求める企業は多いと思います。
なかでもパーパスが特徴的なのは、その後の活動について二つの方向性があることです。二つの方向性とは「外向き」と「内向き」ですね。外向き、つまり対外的には、パーパスとは社会のなかに自社の存在を位置付ける、ブランディングの集大成といえます。パーパスの策定後には、それを用いて顧客や社会と継続的にコミュニケーションをし、自社の存在意義を訴えなければいけない。その意味でパーパス策定後の活動が重要になるわけです。
しかし、それ以上に重要なのが内向きの活動です。先ほど、藤原さんはパーパスを「組織を機能するように成立させる求心力」だと表現しましたが、ただ文言を整えて発表しただけではパーパスに求心力は宿りません。社内に広く認知され、従業員一人ひとりの腑に落ちるからこそパーパスは力を得るわけです。そのため、本日はJTさんがグループ内に向けて、どのような浸透施策を図っているのかに焦点を当てたいと思っています。
藤原:それについて重要なポイントなのが、「従業員はパーパスにあまり反発しない」ということなんです。ITシステムや新規事業を新しく展開すると、従業員の一部から多少の反発は付き物ですよね。でも、パーパスは違います。なぜかというと、パーパスはそれまでの歴史や事業を踏まえて自社の存在意義を言葉にしたものなので、従業員たちにとってもそれほど違和感はないからです。「まあそうだよね」とか「たしかにそうか」といった穏当なリアクションに着地しやすい。
では、それでパーパスの浸透が完了したかといえば、それも違います。「反発しない」は必ずしも「腑に落ちる」ではないわけです。むしろ、ぼんやりと理解したつもりになって、パーパスが提起した問いについて考えたり、パーパスに照らし合わせて自らの行動を点検したりといった活動が抜け落ちてしまうことがあります。
さらに、それとは逆にパーパスについて「考えすぎてしまう」という問題もある。これは真面目な従業員ほど陥りがちです。事あるごとに自分の行動がパーパスに適っているか立ち止まってしまうために、いわゆる「自縄自縛」な状態に陥って辛くなってしまいます。
だから、パーパスを策定した後には、理解を押し付けすぎても、押し付けなさすぎてもうまくいきません。その中間の、パーパスについてわかるようなわからないような、毎日の活動のなかでふとしたときに自らの行動を見つめ直すきっかけになるような状態に従業員を誘っていくのが「その後の活動」の要諦なのだと思います。
藤井:いやあ、面白い。実践者にしか話せないリアリティのあるお話ですね。
藤原:ありがとうございます。なので、JTとしても、現在はパーパスの浸透というよりも、パーパスについて従業員たちが考える機会をいかに作るかに注力しています。
──たしかにパーパスに関する議論で最近よく聞くのは「どう浸透させるか」といった話題です。自発的には考える機会を作るというのは新たな視点ですね。