従業員の自発性に火をつけ、「最初の一歩」に誘う
──藤井さんはJTのパーパス関連施策を支援していると伺いました。具体的に、どの部分を支援したのでしょうか。
藤井:私が参画したのは、Values/Behaviorsが策定された後ですね。Values/Behaviorsを、JTの従業員の皆さんの行動にどのように落とし込んでいくかを、藤原さんたちと検討しました。つまり、パーパスやValues/Behaviorsを実践する際の「最初の一歩」を踏み出してもらうための施策をつくるのが私のミッションです。抽象的な理念を、いかに自分事化させてアクションに導くか。藤原さんたちとの議論を重ねるなかで出た答えが手段としての「動画」でした。
──動画ですか?
藤原:はい。コーチングやカウンセリングのように、1on1のコミュニケーションで従業員の行動を変容させるのが最も効果的な方法だとは思います。しかし、それをグループの全員に実施するのは現実的ではありません。マス向けのコミュニケーションが可能なツールとしては、動画が最も有効だと考えました。
ただ、動画という手段よりも、特に知恵を絞ったのが「何を伝えるか」の内容の部分です。一方的に理念を押し付けるのではなく、従業員一人ひとりが自発的に行動を変えようと思えるには、どのようなメッセージを発信すればよいのか。そうした検討の末に動画のコンセプトを「やれる、できる」に決めました。
藤井:「やれる、できる」というのは、秀逸なコンセプトだったと思います。特に「わかる」ではなく「やれる」というのがポイントですよね。
藤原:人が最初の一歩を踏み出すのは、「やれる」の手応えを掴んだときなんですよね。「わかる」だけでは、人はなかなか行動を起こさない。だから、動画のなかではValues/Behaviorsを実践する従業員の姿を再現し、さらにその行動をできるだけ些細で日常的なものにすることで、従業員たちに「やれる」と思ってもらえるよう努めました。
──あくまでも従業員の自発性に訴えるのがポイントということですね。
藤原:そうです。動画を制作するにあたっても、最初の一歩を「踏み出させる」のではなく、「踏み出したいと思ってもらう」ことにかなり留意しました。
藤井:以前からJTさんのお手伝いをするなかで、従業員の方々のドライブを大切にする組織という印象があります。それは人の変革が、組織の変革に繋がることを理解しているからではないかと。従業員の意識や行動を変えるのには、どうしても時間がかかります。短期的に見れば、ROIに見合わないこともあるでしょう。しかし、JTさんの場合は、人を変革すれば中長期的には組織の利益になることを肌感覚で理解しており、だからこそ時間をかけてじっくり従業員に向き合う組織文化があるのだと思います。
藤原:ありがとうございます。もちろん、これまでの取り組みは試行錯誤の連続だったので、JTが際立って優れているわけではないのですが、一方で「人に予算や時間を割く」という企業文化は間違いなくあると思います。今回のパーパス策定後の取り組みも、その一端を示しているかもしれません。