大企業でのデザイン組織の定着を可能にした「プロット図」の開発
多種多様なサービスを展開しているために、抱える課題やその解決に求められる職能も多様化する。こうしたシチュエーションにおいて、企業はどのようなアプローチでデザイン活用を推進すればよいのか。磯貝氏は最重要ポイントとして「事業状況のデザイン機能の合致」を挙げ、以降、リクルートにおける具体的な実践事例を紹介していく。
その実践事例の解説に先立って、磯貝氏は以前のリクルートにおけるデザイン活用における課題を、サンプルとしてわかりやすいものとして以下を示した。
例えば「デザインの投資対効果が説明できずにどうしたらいいかわからない」という課題。デザイン活用が定着していない企業では「デザインによってどれだけの利益がもたらされるのか」が不明確なため、取り組みの推進にあたっては投資対効果を社内に説明し理解を得なければならない。しかし、その説明自体が難しく、デザイン活用を妨げる要因になってしまう。
そのほかにも「検討しているサービスがユーザーに受け入れてもらえるかわからない」「サービスの見栄えを良くしたいが品質が上がらない」「事業戦略のコアとしてデザインを活用したい」など、以前のリクルートには性質の異なるデザイン活用に関する課題も数々存在していた。
では、これらに対して、リクルートはどのように適切な職能のデザイナーをアサインし、課題を解決していったのか。そのために開発したツールを磯貝氏は紹介した。
「さまざまな課題を分類し、適切なデザインの職能をマッチングさせるため、独自のプロット図を作成しました。縦軸にビジネスや技術、戦略などの事情から発生する『業務不確実性』、横軸にUXやデザインスキルなどの事情から発生する『デザイン不確実性』を配置し、二種類の不確実性の高低でデザイン活用の課題を分類しました」(磯貝氏)
さきほども例示した課題である「投資対効果の説明」では、上記プロット図では業務不確実性が「高」、デザイン不確実性は「低」のエリアにプロットされる。これには「社内への説明」という業務面でのスキルやリソースの投下が求められるが、具体的なデザインの作業やスキルはそれほど求められないからだ。このように、リクルートは、その他の課題についても業務不確実性とデザイン不確実性という二つの軸で評価を行い、プロット図に落とし込んでいった。磯貝氏は、この取り組みにより、それぞれの課題に求められるデザイナーの職能を明らかにすることができたと話す。
「例えば、投資対効果の説明では、事業を理解して最適な提案をするスキルが求められるため、デザイナーの職能としてはデザインコンサル系の人材が適任です。その逆に、サービスの見栄えという課題については、業務不確実性が低く、デザイン不確実性が高いため、高品質なデザイン制作を得意とする人材がマッチしやすいことがわかります。このように、デザイン活用に関する課題をプロット図上にマッピングすれば、その課題に求められる職能が明らかになり、デザイナーのマッチングも比較的容易です。実際に、リクルートでもこの手法に則して、デザイナーのアサインを行い、デザイン活用の成功事例を積み重ねていきました」(磯貝氏)