「顧客体験の向上」と「業務効率化」の両立
説明動画を導入したことにより、お客さまからの追加問い合わせが減少し、担当者が勤務時間を増やさずに、他の業務にも集中できる環境が整ったと、山越氏は話す。実際に現場からもポジティブな声が挙がっているという。また、動画の視聴履歴がデータとして記録されることで、お客さまへ「何を・どこまで・どれくらい」説明できているのかが見える化できるようになったと、その効果を説明する。
さらに、担当者の説明スキルに依存していた顧客体験も、説明動画によって、そのばらつきが解消されつつあると井関氏は述べる。こうした動画活用は、顧客体験を向上させながら、担当者の業務負荷を軽減できる。保険料に大きな差がつきにくい保険業界では、事故対応の質こそがサービスの評価を左右するといってもよく、商品の競争力強化にも直結している。
井関氏は、「自分専用のわかりやすい動画」がスピーディに提供されるという体験がお客さまにとって重要だと感じていると話し、今後パーソナライズド動画をより拡充していきたいと意気込みを語る。
山越氏は、口頭で担当者が説明をおこなっている内容はまだまだたくさんあるため、動画を活用することでお客さまの理解度が向上する可能性は大いにあると語る。すべてのお客さまに一貫した説明が可能な部分についても、動画を今後も制作していく見込みだ。
多くのコンテンツを今後展開するという展望を持ったことも、動画制作を1本毎に外注するのではなく、動画制作プラットフォームを導入し、内製化を決断した背景にあったのだろう。
動画活用の効果は、個々のお客さまに対応する現場担当者に留まらず、将来的には保険販売代理店向けのコンテンツ制作や営業部門への展開など、他部門への拡張が期待されている。また、生成AIを用いた自動シーン生成やAIアバターによる解説など、新機能の活用も視野に入れている。こうした取り組みは、損保ジャパンが保険金サービス部門のみならず全社的に業務改善と顧客体験向上を目指す一環であり、事故対応という専門的かつ緊急性の高い領域において、新たなデジタル活用の可能性を示している。
これからも同社では現場からのアイデアをもとに、お客さまのニーズに対応したコンテンツを柔軟に提供していく方針だという。現場経験をもつ担当者が本社に異動し、支援業務に携わることで、お客さまと現場社員双方の課題を踏まえた効果的なソリューションが生まれている。事故対応という専門性の高い業務領域において、動画を核としたデジタル活用は、保険業界でのDX推進事例として今後も注目されることだろう。