ベイン・アンド・カンパニー(以下、ペイン)は、「Global M&A Report 2025」を発行した。
同レポートでは、過去3年間にわたり低迷していたグローバルM&A市場が、2025年には回復を迎える可能性を示しているという。昨年はゆるやかな回復が見られたが、過去3年間の逆風により取引が停滞した結果、世界のGDPに対する取引額の割合は歴史的に低水準にとどまっている。一方で、2025年には、M&A市場の停滞を招いていた二大要因である高金利と規制の壁が緩和される兆しが見られたという。
同レポートでは、「テクノロジーの変革」「ポスト・グローバリゼーション」「利益プールの変化」がM&A市場の新たな成長を促し、企業にとってM&Aおよび事業売却が重要な戦略ツールとなることを指摘。また、生成AIの導入が進み、2025年末までにM&A実務担当者の3人に1人が生成AIを活用するようになり、今後5年間で生成AIがM&Aにおけるプロセスのあらゆる段階で活用されるようになると予測しているとのことだ。
回復の背景
M&Aへの本質的な需要は依然として高いものの、市場の動きは鈍い状態が続く。企業がリスクとリターンのバランスを取りながら成長の道筋を模索する中で、M&Aは経営戦略の中核になっているという。不安定な経済見通し、サプライチェーンの混乱、地政学的緊張が続く中、金融投資家も資金を投じる機会を積極的に探しているとのことだ。
また、戦略を見直す事業会社や流動性の確保を迫られるプライベート・エクイティ(PE)、およびベンチャーキャピタル(VC)など、市場が回復しバリュエーションが上昇すれば売却を検討できる資産を複数持つ企業が数多く存在しており、売却対象候補もすでに多数市場に存在しているという。
今後、テクノロジーの革新は、長期的に最も大きな戦略的変革をもたらし、M&Aを促進する要因になるとしている。生成AIをはじめとするAI、オートメーション、再生可能エネルギー、量子コンピューティングなどの技術は、企業が競争力のある製品・サービスを維持しコスト優位性を確保するために、自社開発またはM&Aを通じて獲得する必要があるという。テクノロジー企業だけでなく、非テクノロジー企業も、事業を進化させるために引き続きテクノロジー関連のM&Aを積極的に模索すると見込まれるとのことだ。
ポスト・グローバリゼーションとプロフィットプール(当該市場において企業が生み出す利益の総和)の変化も、引き続きM&Aを促進する要因に。経営層は、自社のグローバル展開を再評価し、魅力的な市場へのアクセスと安定した供給網の確保を目指すとともに、変化するプロフィットプールに適応する戦略へとシフトする必要があるとしている。
M&Aにおける生成AIの活用
ベインが300名以上のM&A実務担当者を対象に実施した調査によると、現在21%がM&A業務に生成AIを活用しており、1年前の16%から増加。2025年末までには3人に1人が利用する見込みだという。また、積極的に買収を行っている事業会社やPEファームほど、より高い割合で生成AIが導入されていることがわかったとしている。
現在、最も一般的な活用方法は、案件の発掘や評価に関するものだが、今後5年間でM&Aにおけるプロセスのあらゆる段階に生成AIが活用されるようになると予測しているという。
早期に導入した企業はより迅速に優れたインサイトを得ることで競争優位性を確立しているが、対照的に、導入が遅れた企業は有望な案件を他社に奪われ、価値の低い案件に時間を費やしてしまう可能性があるとしている。ただし、まだ手遅れではないとのことだ。
早期に導入した企業は、生成AIを活用して案件の発掘、スクリーニング、デューデリジェンスを加速させるだけでなく、統合計画や事業売却の戦略策定、プログラム管理にも応用し始めているという。今後1年以内に、早期に導入した企業が統合計画や移行サービス契約(TSA)の作成時間を従来の20%以下に短縮できるようになるとベインでは予測を述べている。
さらに、その次の段階として、生成AIを活用して企業の具体的なデータにアクセスし、実現可能なコスト・収益シナジーの算定や、過去の買収実績に基づいた価値創造計画の策定が進んでいくことが予測されるとのことだ。
業界別動向
Global M&A Report 2025では12の業界別、日本を含む10地域別の戦略的買い手の取引動向を解説している。業界別の各章の目次の抄訳は次のとおり。
- 航空宇宙・防衛:既存企業は豊富な資金を持つ新興勢力にいかにして対抗するか
- 自動車・モビリティ:不透明な未来に備え、リスク分散を図る戦略
- 建築資材・テクノロジー:未来を形成するための取引
- 消費財:成長を促すための事業分割
- エネルギー・天然資源:記録的な年にM&Aの経済効果を最大化する方法
- 金融サービス:市場回復の兆し
- ヘルスケア・ライフサイエンス:新たな現実に適応できる企業が成功する理由
- 機械・設備:優れた企業から学ぶ
- メディア・エンターテインメント:消費者、IP(知的財産)を掌握するか、何も得られないか
- 小売:回復の兆し―今後も拡大が続く見込み
- テクノロジー:収益とコストのシナジーを同時に実現する戦略
- 通信:最新の取引動向を解説
2024年の日本のM&A市場は記録的な成長
依然ゆるやかな成長を示すグローバルM&A市場と比べ、日本のM&A市場は2024年に1740億ドル、前年比34%増の記録的な成長を達成。その内、戦略的買い手による取引は1430億ドルに達し、前年比で71%の大幅な増加を記録したという。
この成長の背景には、同意なき買収のガイドラインの明確化や、東証による上場企業へのPBRを1倍以上への引き上げ要請など、日本政府や関係当局がM&Aを価値創造の中核ツールとして促進していることが挙げられるとしている。2024年、日本の資産に対する国際的な関心は依然として強く、たとえばアリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスの買収(584億ドル)や、ボッシュ、ジョンソンコントロールズによる日立空調の買収(35億ドル) などの大型のディールが発表された。この傾向は今後も続くと予想されているという。また、低金利や、コングロマリット企業に特に多く見られるマルチプル向上の機会を背景として、PE投資家、エンゲージメントファンド、アクティビストが引き続き日本市場に対し大きな関心を示しているとのことだ。
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