日本企業の新規事業「失敗の歴史」
1周目:徒手空拳による停滞期(2010年代前半まで)
新規事業の必要性が叫ばれ始めた初期段階です。確立された手法が存在せず、多くの企業が既存事業の延長線上で新規事業を検討していました。しかし、両者は前提条件が根本的に異なります。既存事業には実績と豊富なリソースがあり、市場での立ち位置も確立されています。一方、新規事業は不確実性が高く、小規模からのスタートを余儀なくされ、成功も保証されていません。
それにもかかわらず、新規事業を既存事業と同じ基準で評価するため、「規模が小さい」「リスクが高い」「収益性が見込めない」といった理由で却下され続けました。
たとえば、売上1,000億円の事業を持つ企業で10億円規模の新規事業を提案しても、「既存事業の100分の1しかない」と一蹴されてしまいます。0から10億円を生み出すこと自体が大きな成果のはずですが、この評価軸のズレが、1周目の停滞を招く大きな要因でした。
結果として、リスクがなく事業規模も大きいという、現実には存在しない「理想の事業」を追い求めることになり、現場は疲弊し、新規事業は立ち上がらなかったのです。
2周目:リーンスタートアップによる“小粒な事業”の多産期(2015年頃~)
1周目の反省から、今度は極端な方向に舵が切られます。2015年頃から活発になったのが「2周目」です。「とにかく動け」という号令のもと、主に米国のスタートアップ文化から輸入されたリーンスタートアップやアジャイル開発といった手法が注目され、アイデアを素早く検証していくアプローチが広がりました。
このアプローチには、小さく始めてリスクを抑えながら事業を育てられるというメリットがありました。実際に、PoC(概念実証)や事業化のスピードは1周目より大きく改善されました。
しかし、ここで問題が浮上します。まず、スケールの問題です。売上1兆円規模の企業が10億円の事業を創出できても、株主からは「既存事業を成長させた方が効率的だ」「会社全体へのインパクトが小さすぎる」と評価されてしまいます。
さらに深刻だったのが、日本企業特有の「一度始めたことはやめにくい」という文化です。結果、社内には成果の乏しい“小粒な新規事業”が乱立し、それぞれがリソースを消費し続ける一方、会社全体の成長には寄与しないという状況が生まれました。人的リソースは分散し、投資効率は悪化し、現場の疲弊も進む。こうした表面的な真似事に留まる、いわゆる「リーンごっこ」は、経営陣の新規事業への期待を再び低下させることになりました。
3周目:自社独自の「型」を模索する現在(2020年頃~)
そして2020年頃から現れ始めたのが、現在の「3周目」という流れです。「2周目」の課題に気づいた企業が、「事業の柱になるものがない」「リソースの割に成果が見えない」といった声を受け、自社の新規事業の在り方を根本から見直すフェーズに入っています。
このフェーズでは、2周目で生まれた小粒で先の見えないテーマを整理・収束させると同時に、会社全体にインパクトを与える、より本質的なテーマにリソースを集中投下していく必要があります。
また、「3周目」では組織の在り方も変えなくてはなりません。次回以降で詳述しますが、下図のように既存事業と新規事業では成長サイクルも求められる組織構造も異なります。

成功に近づくための「3周目」における最大の鍵。それは、自社独自の「型」を構築した上で、新規事業に取り組むことです。
