攻めのIRが映し出す「客観的な自社の姿」
栗原:実際にLENZ&Co.が接する大企業のIR担当者は、IRXに対して、どのような点に驚くのでしょうか。また、どのような変革が起きると、お二人はお考えですか。
長谷川:まず驚かれるのは、「IR診断」によって明らかになる客観的な自社の姿です。
たとえば、株価の変動性、つまり「リスク」という観点です。投資家は常にリスクとリターンのバランスで投資判断をしますが、多くの企業はこの「リスク」の側面をIR活動で考慮できていません。「御社の株は市場から見て変動性(ボラティリティ)が高く、リスクが大きいと認識されているため、まずは安定性を訴求するコミュニケーションが必要です」と提案すると、「そんな視点はなかった」という反応がほとんどです。

木下:支援を通じて明確な変革が起きるのは、施策の「目的ドリブン化」です。「東証が言うから」「他社もやっているから」といった理由で実施されていた施策が、「PER向上のため、株価の変動性を抑える」「ターゲット投資家とのエンゲージメントを強化する」といった明確な目的を持つようになります。IRが単なる情報発信ではなく、経営アジェンダそのものを推進する機能として位置づけられるようになります。
栗原:短期的な成果を求められがちな大企業において、中長期的な価値向上を目指すIRXはどのように受け入れられるのでしょうか。
長谷川:もちろん、最終目標は中長期的な企業価値向上ですが、そこに至るまでのマイルストーンを細かく設定します。たとえば、「アナリストカバレッジ(調査レポートの対象となること)の増加」「機関投資家とのミーティング数の増加」「IRサイトのページビュー(PV)数」など、短期的に測定可能な重要業績評価指標(KPI)を設け、活動の成果を可視化します。段階的に成功体験を積み重ねることで、経営陣の理解を得ながら、着実に変革を進めていくことが可能です。

事業は順調なのになぜか株価が上がらない。そんな悩みを抱える経営者へ
栗原:既存の上場企業が、今あえて「IR起点の企業変革」に舵を切ることには、どのようなメリットがあるとお考えですか?
長谷川:最大のメリットは、「全社が同じ方向を向く」ことです。企業価値向上という揺るぎない目標をIRが中心となって掲げ、そこから逆算して各部門の戦略を設計することで、これまでバラバラだった活動に一貫性が生まれます。これは、事業のサイロ化に悩む多くの大企業にとって、極めて有効な処方箋になると考えています。
栗原:最後に、これから上場を目指す成長企業と、更なる成長を目指す既存の大手上場企業、それぞれの経営者に向けてメッセージをお願いします。
木下:これから上場を目指す企業の方々には、「IRは上場時にだけ頑張るものではない」ということをお伝えしたいです。資金調達の段階から、自社の価値を正しく伝えるストーリーを構築し、一貫したメッセージを発信し続けることが、フェアバリューでの上場、そしてその後の持続的な成長に繋がります。
長谷川:そして、既に上場されている企業の経営者の皆様へ。もし「事業は順調なのに、なぜか株価が上がらない」という「報われない思い」を抱えていらっしゃるなら、ぜひ一度、自社のIR活動を見直してみてください。IRを起点とした企業変革は、皆様の努力を正当な企業価値へと転換させる、強力なエンジンになるはずです。我々が目指すのは、企業のポテンシャルが正当に評価される「美しいマーケット」です。その実現に向けて、皆様と共に挑戦できることを楽しみにしています。
栗原:本日はわかりやすくお伝えいただき、ありがとうございました。
