何がきっかけでFP&A導入は加速するのか
栗原:日本企業では、どのようなきっかけでFP&Aを導入することが多いのでしょうか。
池側:きっかけは「外的要因」と「内的要因」の両方があります。外的要因の代表的なものの一つは外部環境の変化に対応した「事業構造の転換」です。わかりやすい事例としては、製造業からサービス業、売り切り型からリカーリング型などのように、事業構造が大きく変わる場合が挙げられます。
製造業として工場を持っていた時代は、経理部が原価管理を通じて事業を深く理解していました。しかし事業構造の転換にともない、本社経理部が現場の実態から乖離(かいり)してしまう現象が起きています。会計制度や内部統制の高度化などへの対応もあり、本社経理部門の業務は増える一方です。しかし、業績不振の経営環境では人員も増やせず、新たな事業構造を理解するための知識習得の余裕がなくなっています。
現場が見えなくなった危機感から、CFOや経理部が主導し「事業を理解し、数字で語れる組織」としてFP&A組織を立ち上げる動きがあります。
栗原:外的要因がきっかけになることが多いのですね。他の外的要因にはどのようなものがありますか。
池側:「コーポレートガバナンス改革」も代表的なものの一つです。資本コストを意識した経営が求められる中で、「ROIC(投下資本利益率)指標」の利用が進み、事業部門にもP/LやB/S、キャッシュフローを理解できる人が必要になっています。また、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の是正が、FP&A組織立ち上げのきっかけになる場合も多いようです。
他には「M&Aによる事業のポートフォリオの多角化」があります。事業ポートフォリオを持株会社として束ねる必要が出た場合、コーポレート部門を強化し、FP&Aが持株会社と事業会社をつなぐという事例も見られます。投資会社の介入や指摘で欧米型CFOやFP&Aの導入が始まることもあります。
栗原:では、FP&A導入のきっかけとなる「内的要因」には、どのようなものがあるのでしょうか。
池側:「創業者の引退」や「不祥事」が起きたタイミングが該当します。カリスマ創業者の勘と経験に頼れなくなること、またガバナンスの欠如が露呈した際に、論理的かつ透明性の高い経営管理への転換として欧米型の仕組みが導入されるケースです。
日本企業における「FP&A導入」の三つのパターンとは
栗原:FP&Aを導入する際、日本企業ではどのような組織体制になることが多いのでしょうか。池側さんは三つのパターンに分類されていますね。
池側:はい。CFOのバックグラウンドや既存組織の力関係によって、以下の三つのパターンに分かれます。
日本企業におけるFP&A組織設計事例(1)
これが欧米型に近い形です。経営管理と会計の両方をリードできる強力なCFOが存在し、その配下に経理財務部とFP&A組織(経営企画と事業企画)が置かれます。この形に移行する日本企業は増えています。
日本企業におけるFP&A組織設計事例(2)
経理出身のCFO、あるいは危機感を持った経理部長が主導するパターンです。経営企画部は社長直下に残しつつ、経理部の中にFP&A機能を持たせます。経理部員が事業部FP&Aになることもあります。
この場合、経営企画との役割分担が課題になりますが、「全社ビジョンや定性的な戦略策定は経営企画」「具体的な数値計画や予実分析はFP&A」という形で共存を図るのが現実的です。席を近くしたり、人材交流を行ったりすることで、良い関係性を構築します。
日本企業におけるFP&A組織設計事例(3)
経理部とは別に、経営企画部が実質的なFP&A機能を担うケースです。元々経営企画が数値管理を回しており、本社機能と事業部門をつないでFP&A組織を作ります。リーダーがFP&Aについて勉強し、必要な経営や会計の知識、スキルを組織全体に習得させます。この場合、経理部門は従来どおり財務会計を担当します。
栗原:この経営企画主導型は、安定的に優秀な人材を確保できれば成功しそうですが、優秀な人材の業務をトレースして、継承していけるかが課題となりそうですね。
