事業計画の「常識」に存在する、いくつかの大きな嘘
木村氏は「いい事業計画は、作り直すことを前提としたもの」と定義し、その策定技術を明かした。その上で、実務家が悩む「3つの問い」を取り上げ、従来の常識を覆す。
1:計画の「期間」は5年が妥当か?
『とりあえず5年分』はプロのせりふではなく、その計画期間は、事業が依拠する「資産の耐用年数」で考えるべきだとした。
「ITソフトウェアなら技術陳腐化が早く3~5年。インフラ事業は30~50年で考えます。その資産が償却を終えるまでに収益化できる構造を示す必要があるからです」
2:計画の「時間間隔」は月次か、年次か?
かつて「月次」と指導していた木村氏だが、ある時、例外にぶち当たった。「原子力発電事業では月次は違うな」と気づいたという。計画の粒度は、「事業の営業周期(顧客の意思決定スパン)」に合わせるのが合理的だ。BtoCなら「日次(にちじ)」、BtoBのSaaSなら「月次」、超長期のものは「年次」や「四半期」で十分な場合もある。
3:計画の「細かさ(粒度)」はどこまでか?
木村氏の答えは明快であり、「その計画を見て、『明日、何をするか』に答えられる粒度」だ。
「来月から何をするかが明確でなければなりません。極端な話『売上100万円』という表記でも、チーム全員が明日何をするかわかっていればその粒度で良いのです」
木村氏は、上記のように3つの従来の「事業計画の常識」を解体したうえで、「最もやってはいけない事業計画の策定方法」のパターンとして「市場シェア型(X%取ります)」と「成長率型(X%成長します)」を挙げる。
これらは計画ではなく「傾向」や「願望」に過ぎず、目標を明示したに過ぎない。この目標に到達するには、具体的にどのような行動をするべきかという点が欠けてしまっている、と指摘する。
計画の「蓋然性(がいぜんせい)」を担保する唯一の方法
その決定的な欠如は、経営会議での「その計画、蓋然性はあるのか?」という“キラーフレーズ”に集約される。
「新規事業において、個々の数字の“正確性”を事前に証明することは不可能です。つまり、“やってみないとわからない”。しかし、計画は必要です」
では、計画の「蓋然性」は何によって担保されるのか。木村氏の答えは一つ。「収益構造(KPIツリー)」の正しさだ。
一方、多くのビジネスパーソンが試行錯誤と経験の積み重ねで収益構造・KPIツリーを構築してきた。これを体系化・手順化したのが木村氏の提唱する「収益構造分解理論」である。
著書のハイライトであり、木村氏が代表を務めるプロフィナンス社のプロダクトである経営DXプラットフォーム「Vividir(ビビディア)」の核が、この「収益構造分解理論」だ。これは、「売上1,000万円」といった曖昧で解像度の低い目標を、「売上=A × B × C ・・・・・・」と、実際の打ち手が見えるレベルまで構造的に分解していくための思考法である。
■例:SaaSビジネスの売上分解
- 売上 = 顧客数 × 顧客単価
- 新規顧客数 =(リード数)×(商談化率)×(受注率)
なぜ、この分解が重要なのか。以下のように指摘する。
「『売上が100万円足りませんでした。来月頑張ります』では、何を頑張るのかわかりません。ギャンブルです。しかし、『リード数は達成しましたが、商談化率が2%低かったため、100万円ショートしました』となれば、『では来月は、商談化率を上げるためにトークスクリプトを見直そう』というように、具体的な行動の改善につながります」
この構造分解こそが、計画を「検証可能」にし、「実行」と「学習」のサイクルを回すエンジンとなる。
