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FP&Aは戦略(ポエム)と経理財務(算数)を接合する翻訳家。鍵は価値創造フレームワークという設計図

ゲスト:FP&Aエヴァンジェリスト 鷲巣大輔(わしず・だいすけ)氏

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FP&Aにとって必須の「価値創造のフレームワーク」とは

栗原:戦略と財務を結びつける具体的なメカニズムとして、監訳された書籍『経営管理・ファイナンス部門のための FP&Aのすべてーーパフォーマンス管理、事業予測と計画策定、戦略的意思決定の全実務』(ダイヤモンド社)では、その中核に「価値創造のフレームワーク」があるとされています。このフレームワークについてお聞かせください。

価値創造のフレームワーク
出典:『経営管理・ファイナンス部門のための FP&Aのすべてーーパフォーマンス管理、事業予測と計画策定、戦略的意思決定の全実務』(ダイヤモンド社、2025年)P139、図7.4「価値創造のフレームワーク」/クリックすると拡大します

鷲巣:このフレームワークは、株主価値を頂点に、それを構成する「6つのバリュードライバー(価値創造の要素)」と、それを実現するための「業務プロセス」や「選択された打ち手(M&A、新商品開発など)」をリンクさせる構造になっています。これは、単なる財務数値ではなく、競争戦略やマーケティングといった事業側の要素と財務的要素を接合させるための設計図です。

 FP&A人材にとってこのバリュードライバーを管理することは、企業価値を高めるための道筋を設計することと同義だと考えているので、きわめて重要な概念だと考えます。

 主要なバリュードライバーは、以下の6つに整理できます。

  1. 収入/売上高の増加(ボリューム)
  2. 高価格設定能力(プライシング)
  3. 業務効率
  4. 資本効率
  5. 資本コスト
  6. 無形資産/ブランド、信頼、成長期待

 特に、収入/売上高の増加、高価格設定能力、業務効率、資本効率の4つを押さえれば、フリーキャッシュフローは伸びます。たとえば、やみくもに高い価格をつけるのではなく、市場における自社の強みや顧客のニーズを理解した上で「プレミアムなプライシング」が可能になる。この要素をバランスよく、かつ長期的に高めていくことが、企業価値を高めることになります。

FP&AにおけるPDCAサイクル、鍵となる経営層とのコミュニケーション能力

栗原:FP&Aが機能として担う、具体的な業務やタスクの全体像を教えてください。

鷲巣:FP&Aの業務は、経営のPDCAサイクルを回すことに典型的に表れます。「P(プラン)」では、中期計画や年度予算の策定が該当します。戦略をバリュードライバーに沿って数値に翻訳し、事業活動と財務を接合させるプロセスだと言えます。次の「D(Do)」は、事業部が実行を担います。

 「C(チェック)」では、予算と実績の乖離(予実差)をレビューし、進捗を確認。具体的にはKPI(重要業績評価指標)の設計やビジネスのパフォーマンス管理を行います。「A(アクション)」では、予実差の乖離幅が大きい場合、その乖離が一過性のものなのか、今後も継続して生まれ続けるものなのかを判断します。もし後者なのであれば目標達成に向けて取るべき選択肢を洗い出し、インパクト、リスク、実現可能性、副作用などを考慮して、計画の修正を行います。

 さらに、このPDCAサイクルを効果的に機能させるために不可欠なのが、意思決定権者とのコミュニケーションと対話です。いかに分析結果をわかりやすく伝え、意味のある対話を通じて意思決定の質を高めるかが、FP&Aの重要な役割です。

栗原:短期的な目標達成ではなく、長期的な視点を持つことがFP&Aにとって重要だとおっしゃっていますが、その意義は何でしょうか。

鷲巣:FP&Aは、短期的な数字の調整(算数)ではなく、長期的な企業価値の創造に焦点を当てなければなりません。たとえば、売り切り型モデルからサブスクリプションモデルへの転換は、短期的に見れば売上や利益が一時的に下がるかもしれませんが、長期で見れば顧客が積み上がり、安定的なリターンを生み出す可能性があります。

 FP&Aは、こうした「短期では理にかなわないが、長期で見れば理にかなう」戦略の正当性を、ファイナンス理論に基づき評価し、経営者や株主、従業員に対してコミュニケーションを取る必要があります。この長期的な視点を持つことが、過去の事実を評価する従来の財務会計や、原価計算に終始する従来の管理会計との大きな違いです。FP&Aは、過去の会計情報を基に将来価値を作るために何をすべきかまで踏み込みます。

鷲巣大輔

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日本企業へのFP&A導入は「制度」以上に「属人的な信頼」が鍵

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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