FP&Aがリードする、リクルートの将来予測のサイクル
池側:近年、多くの企業が固定的な「中期経営計画」の限界を感じていますが、リクルートはかなり前から独自の業績管理のサイクルで動いていますね。具体的には、5月・8月・2月の「合算」というタイミングを重視されていますが、このローリング予測の運用実態をお聞かせください。
三木:私たちは「OODAループ」的な管理を重視しています。年度予算と実績の差異を後追いで分析するのではなく、常に将来を見据え、毎月当年度の収支予測を最新化しています。
また2月の来期計画策定や8月の下半期計画策定のタイミングでは、最新のマーケットや事業環境に基づき、目標そのものをダイナミックに修正します。
池側:常に将来を予測し続けるのは現場の負担も大きいと思いますが、岡崎さんは現場でどう感じていますか。
岡崎:確かに大変ですが、このサイクルがあるからこそ、期中でも「今、この投資をすべきか」という判断が可能になります。計画が決まるのを待つのではなく、最新予測に基づいて投資のアクセルを適時踏む。年度予算という「固定された線」との比較ではなく、常に「動いている未来」に対して何ができるかを考えるスピード感こそがリクルートの経営管理の真髄です。
収益性の「規律」と「自由」を両立させる仕組み
池側:ボトムアップを尊重しつつも、一方でリクルートは非常に高い収益性を維持されています。MMT事業においては、減価償却費の影響を受けず本業で現金を稼ぐ効率(収益性)を測定できるように「EBITDA+S」を事業指標としています。その数値を、2025年度の27%程度から2028年度には「35%」に引き上げるという、驚異的な目標を掲げていますね。この「規律」と「自由」をどう両立させているのでしょうか?
三木:自由には責任がともないます。各事業長には大きな裁量を与えられていますが、同時に「資本効率」や「持続可能なマージン」に対する厳しい規律も求めています。FP&Aはこのマージンターゲットから逆算して、現在の事業ポートフォリオやコスト構造が適正かどうかを、経営陣と同じ目線で冷徹にモニタリングする役割を担っています。
池側:単なる「売上が上がれば良い」という発想ではなく、資本市場からの期待(マージン水準)を現場の言葉に翻訳して伝えているのですね。
岡崎:そうですね。現場は常に成長のための投資を望みますが、私たちは同時に「規律」の番人でもあります。単に「NO」と言うのではなく、「このマージンを維持するためには、どのコストを最適化すべきか」という議論をセットで行います。
池側:リクルートのFP&A人材に求められるスキルセットを伺うと、「ファイナンス理解」の優先順位が意外にも低いのが印象的です。
三木:知識は必要に応じて後から身につけていくことができます。それよりも重視しているのは、たとえば「コミュニケーション」や「クリティカルシンキング」などです。経営管理の現場で、正論を述べるだけでは人も事業も動きません。相手の立場を理解した上で「本当にやりたいことは何だったか?」と本質を問う懐疑的な思考こそが、精度の高い予測と、事業を動かす提言を生むのです。
