「日本版FP&A」を古くから実践し、進化させた経験から思うこと
池側千絵氏(以下、池側):リクルートは日本におけるFP&Aの「老舗」と言えます。その中でも非常にユニークなのは、日本企業のFP&Aの第一人者である三木さんの存在です。日本企業の生え抜き社員であるにもかかわらず、早い段階から外資系企業に勤めるCFO/FP&Aと交流を持ち、他社に先んじてリクルートにFP&A組織を立ち上げられました。まずは、リクルートにおけるFP&A組織の位置づけについてお聞かせください。
三木久生氏(以下、三木):私は現在、リクルートの事業統括室でVice Presidentを務めています。1989年に入社し、就職情報誌事業の計数管理からキャリアをスタートしましたが、実は経理財務部門での実務経験は一度もありません。リクルートでは古くから、管理会計を「経営のWANT(経営に役立つすべての情報)」、財務会計を「世の中のMUST(外部向け計算書類)」とし、担当組織を明確に区別してきました。財務会計が過去の実績を報告する「算数」なら、管理会計は将来を議論する「国語」のようなものです。
1989年リクルート入社。就職情報誌事業の計数管理からキャリアをスタートし、バブル崩壊後の構造改革や分社化・統合といった激動の経営管理を牽引。経理経験を持たずして「事業を伸ばすための数字」を追求し続け、現在はリクルートのFP&A組織を束ねる。
※本文中も含めて、肩書きは取材が行われた2026年3月時点のもの
池側:外資系企業でFP&A業務の経験があったわけではなく、独自に学ばれて、自社のビジネスモデルに最適化した「日本版FP&A」を自ら作り上げてこられたと思います。とりわけ何が成功のポイントだと思われますか?
三木:FP&A組織の導入において、日本企業にありがちな経理と経営企画、本社と事業の二つの壁を壊すことが大前提とされます。しかし、その壁は簡単には壊れません。リクルートでは、本社側の経営管理機能と、事業側のFP&Aが一本のラインでつながりつつ、現場の事業長を支える「事業CFO」的な役割を果たします。これにより、現場の一次情報を素早く経営判断にフィードバックできる体制を構築して、「二つの壁」を乗り越えています。
経営体制の変遷と並行して進化した経営管理の組織体制
池側:リクルートの歴史を振り返ると、負債返済の時代から現在の体制に至るまで、マネジメントシステムがダイナミックに変化していますね。かつて事業部に分散させていた経営管理機能を、現在は再び「経営企画」へと集約されていますが、この変遷の背景を教えてください。
三木:リクルートの経営管理の変遷は、その時代の経営方針に沿ったものです。1990年代は「PC(プロフィットセンター)制度」による徹底的な分権化による事業拡大。2000年代には負債返済のためKPIマネジメントや商品別収益管理まで踏み込んで営業利益を重視。2010年代のビジネスモデルの多様化・グローバル化に対応したカンパニー制を経て、現在の「マトリクス型組織」へと辿り着きました。
かつてはガバナンスのために事業長などの相談役である「CP:カンパニーパートナー」を派遣していましたが、2021年の統合以降は、経営戦略と財務数値をより密接に、かつタイムリーに同期させるため、分散していた経営管理機能をFP&Aとして、経営企画に統合・集約させました。
池側:現在は3つのSBU(Strategic Business Unit)体制ですが、領域ごとの違いをどう捉えていますか。
岡崎達也氏(以下、岡崎):グループ全体で見ると「HRテクノロジー」「マーケティング・マッチング・テクノロジー(MMT)」「人材派遣」という3つのSBUがありますが、マーケットのスピード感はまったく異なります。
他社での管理会計・経営管理経験を経てリクルートへ中途入社。現在は「ホットペッパーグルメ」などのライフスタイル領域のFP&Aとして、ボトムアップの計画策定や最新予測に基づく投資判断支援に従事する。
※本文中も含めて、肩書きは取材が行われた2026年3月時点のもの
私が所属するリクルートは、MMT領域を担っており、提供するサービスでは、クライアント企業と個人ユーザーを結ぶマッチングプラットフォーム(販促メディア)による集客支援や、SaaSを活用したクライアント企業の生産性向上支援を担っています。FP&Aは、これらの異なる戦略目標に対し、リソースが最適に配分されているかをユニット横断でモニタリングしつつ、それぞれの事業に伴走して戦略推進を収支面から支援しています。
