生成AI時代に問われる「暗黙知」。一次情報こそが勝ち筋を創る
続くパネルディスカッションでは、ユニコーンファーム代表の田所雅之氏とモデレーターの石村氏を交え、初期フェーズにおける生成AIの活用と「暗黙知」の重要性について熱を帯びた議論が交わされた。
福井氏が「膨大な過去の知識を引き出す上でAIは不可欠だが、過去の情報をただ繋ぎ合わせるだけでは自社独自の勝ち筋は見出せない。ここが今後のチャレンジだ」と課題を提起すると、田所氏はナレッジを「Public knowledge(公開情報)」「Semi-Private Knowledge(半公開情報)」「Tacit Knowledge(暗黙知)」の3層で捉えるフレームワークを用いて応じた。
「誰もがアクセスできる公開情報は、AIによって瞬時にコモディティ化し、陳腐化します。そこに競争優位性はありません。だからこそ、現場での泥臭いヒアリングや観察を通じて、まだ言語化されていない『暗黙知』を取りに行くことが決定的に重要なのです」(田所氏)
AIを使いこなすことは大前提である。しかし、真の勝負は「いかに質の高い一次情報を獲得し、MVPや営業資料を用いて実ユーザーのファクトベースでFine-tuning(微調整)をかけられるか」にある。過度な網羅性を求めるあまり行動量が減る「分析麻痺」に陥ることなく、独自の暗黙知をAIと掛け合わせることで、初めて他社には模倣困難な強固な事業基盤が築かれるのだ。
アウトプットからアウトカムへ。起業参謀が大企業を変える
議論の後半には、大企業における支援部門のあり方、「事務局から起業参謀への進化」へと話が移った。大企業特有の開発部門と事業部門の壁、そしてカルチャーフィットの欠如は、時にプロジェクトを崩壊(破産)させるリスクすら孕んでいる。
この壁を越えるため、福井氏は「参謀が単にフレームワークを提示してパワポを作るのではなく、起業家とともに現場に入り込み泥臭く汗をかくべきだ」と力説する。異なるバックグラウンドを持つ二者が現場の一次情報を共に解釈することで、大企業病とも言える認知バイアスを緩和できるというのだ。
さらに田所氏は、事務局と起業参謀の決定的な違いを「アウトプットとアウトカムの差」であると鋭く指摘した。
「単に効率よくタスクをこなす(アウトプット)のではなく、社会にインパクトを与え行動変容を促す(アウトカム)ことが重要です。参謀には、ビジョンを語る『鳥の眼』、顧客心理を読む『虫の眼』、行動量を増やす『人の眼』、トレンドを捉える『魚の眼』に加え、全体最適を見極め時期尚早な拡大を防ぐ『医者の眼(Pre-mature Scalingの排除)』が求められます」(田所氏)
技術とニーズを的確に結びつけ、大企業に潜む無理やムラを排除する。この「起業参謀」への進化こそが、大企業から連続的にイノベーションを生み出すための最大の鍵となるとして、セッションを締めくくった。
