国家としての戦略デザイン―米・中への集中は続くものの変化有り
入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
前回は、「これからの世界は、ネットワークによる分散化が進むとしながら、富はより偏在していく」という話が出ていました。その偏在先の代表格が米国と中国という話も。偏在という意味では、シリコンバレーへの人材の集積もいまだ続いています。
ここで僕が感じているのは、真の意味での「情報格差」です。情報が分散すればするほど、「その場にいないと得られない情報の価値」が高まっていく。だから、錚々たるベンチャーがみんなあそこに会社を置くのだと思うんです。その点を佐藤さんはどう考えますか?
佐藤(株式会社メタップス代表取締役社長):
確かにそうですね。ただ人と資本が米国に集まるのは、自然発生的というよりも国の意図的なデザインだと思います。「テクノロジーで国を持ち上げていこう」という大きな戦略のもとで、西海岸側には技術、東海岸側にはお金を集めて、それを輸出して「はい、これを使ってね」と世界中に普及させる。そんな米国の勝ちパターンにみえるのです。一方、中国はその米国の手を良く知っているので、それらを遮断して使えないようにしている。この構造もしばらく続くと思います。
佐宗:(biotope 代表取締役社長)
面白いですねえ。一方で、私が最近感じているのは、シリコンバレーへの一極集中のモデルが崩壊し、例えばエストニアや、ワルシャワ発のベンチャーが出てきていて、イノベーションが分散化している動きを感じています。グローバルの視点から事業を見ていらっしゃる佐藤さんはどのように捉えてらっしゃいますか?
佐藤:
その可能性はあると思います。実際、東欧やイスラエルとかで、少しづつ面白い会社が出てきていますし。ただ、資金は断然米国に集中していますから、震源地は急には変わらないと思います。とはいえ、シリコンバレーのトップコミュニティのスコープに入っていないダークホースもけっこういて、例えば「WhatsApp」なんかは、当初はいわゆる落ちこぼれと見なされていたグループでしょう。「LINE」だって米国とは関係ないし。そんなふうに必ずしも米国がコントロールできていない状況になってきて、米国も焦っているんじゃないでしょうか。
入山:
ボクは米国に10年いたので感じるのですが、米国人って「競争する場のデザイン」作りがすごく上手ですよね。学問の世界でも、研究者にガンガン競争させて、その中で有象無象の研究者がしのぎにしのぎを削った結果、先進的なものが生まれてくるんですよ。
佐藤:
確かに上手いですよね。移民を受け入れるのも、自国民だけで“茹でガエル”状態にならないよう、刺激を与えて危機感を持たせるためといわれています。自国の強みと人間についてよく理解してデザインされているなと思います。
入山:
日本人もその「枠の中」に入ればけっこう頑張ってやれるんですよ。コミュニティに入るプロトコルとかを学べば、その中ではあっという間に成果を出す。でも、そもそもの「大枠のデザインを作る」のは苦手なところがありますね。
佐藤:
そこは米国のお家芸でしょう。自分でルールを作って、それを守らせるという。「米国がスタンダードだよね」と言い切る。何にもないところからあれだけのものを作ったんだから、その自負があって当然でしょうね。イスラエルやシンガポールもそう。必要性があるからイノベーションが生まれる。逆に日本は恵まれているから、なかなかそれができない。そうする必要がなかったと言うべきか。あと、言語に守られていますよね。